お願いは続く
「だからアリスが想像したの、してみて」
「・・・無理」
「すごいの想像したんだ?」
「いや、そうかもしれないけど、自分からするのが無理」
「ぅくっ」
「何?!」
「すごいのを想像したって認めちゃってるね。しかもされるのはオッケーしちゃってるよ?」
「そ、そんなのわからないじゃない。なにが凄くて何が凄くないのかなんてわからないからそう答えただけよ」
「ふうん?」
正直、知識としてはあるけど本当にどうするのか知らない。してみてと言われてする気もないけど、できるわけもない。大体どうしてこうテオは私に「する」ことを求めるの?
「じゃあ普通にキスして」
「・・それなら」
なんで了承しちゃったんだろう。後から頭を傾げることになる。テオの唇までの距離を測る。目を瞑ってそこまで行けるかしら?ソファに座るテオの隣に座り、距離をできるだけ近づけて、えいやっとキスをする。これで勘弁してもらえるのかしら?とテオの目を覗き込むと、テオが瞬きせずに私を凝視していた。
「ん?」
「アリスがキスした」
「うん」
「小さい頃みたいに」
「うん」
「何か言うことない?」
「うん?」
テオに言うこと?・・・なんてことしてくれたんだって怒ってるのかしら。でも「して」って言われたわよね・・もうわからないから素直な気持ちを口に出す
「テオ兄ちゃまが大好きだった。今もテオが好き。大好き」
「アリス」
大好きだと言った瞬間に強く抱きしめられる。ほんの少しテオが震えている気がしたけれど、テオの香りに包まれて頭の芯が痺れたみたいになってる私の震えだったのかもしれない。
□ □ □
「ねえクッポ・・」
「なあに」
「テオのラブゲージって」
「70」
「もやもやする数字ね」
夏休みの間、テオと湖畔で過ごしても、テオのお願いで何度か私からキスをしても数値は小さく減ったり増えたりを繰り返した。
「こんなにしょっちゅう会ってるのに、こんなに伸びないのはどうして」
数値なんて気にしないと言いながら、テオとジュードの数値は謎だらけで気になってしまう。そういえば攻略対象のイーサンは関わりがなくなってしまった。きっと完全にルートを外れたのだろう。
□ □ □
夏休みが終わり、またイベントの多い二学期が始まる。今年は絵画展に出す作品を用意しようかと思ったけれど、出すも出さないも自由なので出さないことにした。何人も天才的に上手い生徒がいて、その中に交じるのは昨年の刺繍で懲りたから。
馬術も出るより見ていたいので不参加だ。何にも参加しないこの気楽さ。テオは絵もものすごく上手いのに、剣術と馬術以外は参加しないと言う。空いた時間に二人で裏庭の木陰で過ごすことが増えた。相変わらずテオから何かをしてくることはない。じわじわそれが気になり、最近は頭の大半を占めている。
そんな悶々とした頭を抱えたまま、シャーロットと二人きりのサロン。
「ねえ・・」
「・・悩みがあるときのトーンね」
「そうなんだけど・・ものすごく口に出しにくい」
「口に出しにくいけど悩んでいる。お兄様とうふふな話のようね」
「侯爵令嬢としては肯定いたしかねますわ」
「・・・なるほど」
「例えばの話よ?」
「ええ、例えばね」
「キスしてとは言われるのに、キスはしてこない男性の心理ってどうなってるの?」
「ずいぶん思い切った例え話ね」
「例え話にためらいなんていらないもの」
「身内の話じゃない・・例え、例え話」
「自分に言い聞かせてくれてるのね」
「・・・さっぱりわからない」
「ええっ?」
「まあ何か考えがあってのことだろうとは思うけれど」
「シャーロットならどうする?」
「お兄様とキスなんてしないからわからないわ」
「コラ」
「アーサーがしてこないことも考えられないわ」
「相談しに行ったのに目の前でひたすらいちゃつかれて帰るしかない人間の気持ちってわかる?」
「誰よそんな無神経なことをするバカ」
「親友が思ってる以上に恋愛に浮かれた令嬢だった」
「そういえばリジーはどうなったの?」
「恋愛に浮かれてる親友の令嬢ってリジーのことじゃないんだけど」
「浮かれてるかもしれないじゃない」
「まだゆっくり話せてないの」
「あら、残念だわ」




