表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/68

筋トレ

「ねえ、あの人確かハンカチ落とした人じゃない?」



「あ、そうね」


「近くに女子が集まってるし、人気なのかしら?」


「さあ?」


なんとなく気になって、試合を見ていたら、開始早々に相手の剣を叩き落として勝った。見ていた女子たちが小さく「キャー」と嬉しそうにはしゃいでいる。


「強いし人気みたいね」


「なかなかの腕前ね。あれほど強いならテオ兄様とも戦えるかもしれないわ」全学年の選抜試合があるらしく、テオと対戦するかもしれない。


「あ、ほらジュードが出てきたわ」左側のコートを見ると、ジュードが準備を始めていた。

ジュードがこちらを見たので、軽く手をふるとジュードも手を振った。


・・・。


「ねえ、シャーロット」


「ええ、アリス」


「前方から睨まれている気がするのだけど、私の気のせいかしら」


「いいえ、はっきりと睨まれていてよ」


「私ではなくシャーロットが睨まれて・・」


「明らかにあなたよ、アリス」


「ふっ」


3人組の女子生徒が私を見て睨んでいる。彼女たちはジュードに好意を抱いているのだろうか。こんなにわかりやすく睨まれると、なんだか可愛くてつい微笑んでしまった。


「始め!」という号令で、彼女たちも私から視線を剥がし、ジュードの試合を見つめる。ジュードも開始早々に相手の剣を弾いて勝利した。


「ジュード、強いのね」


「それだけ?」


「他になにかあるの?」


「まあ・・思い出すかと期待したんだけどね」


まだ試合は続くらしく、ジュードは私の方を見ながら控えに下がっていった。続いて出てきた生徒がシャーロットに手を振る。シャーロットが優雅に手を振り返した。


「アリス」


「ええ、シャーロット」


「あなた、睨まれているわよ」


「明らかにあなたが睨まれているのよ」


「ここって目つきを鋭く鍛える場所でもあるのかしら」


「女性の恋心と嫉妬がはっきりと見える場ではあるようね」


「ところでいつルーカス王子とそんな仲に?」


「この前、王妃さまのお茶会で出会って少し話しただけよ」


シャーロットの顔をじっくり見るとほんのり赤くなっていた。


「意外だわ。あなたがそんな顔をするなんて」


「そんな顔ってどんな顔だというの?」


「顔、熱くない?」


「ま、まさかわたくしの顔が赤い・・と?」


「シャーロットが可愛い、どうしよう」


「・・あ、またあのハンカチくんが出てきたわ」


「話をそらしたのね」


「あらハンカチくん・・アリスを凝視してない?」


「私じゃないと思うけど」と後ろを振り返ったものの誰もいなかった。


始め!と声がかかり、慌てて構えたハンカチくんだったけれど、難なく勝利した。


「シャーロット、今日はよく睨まれる日だと思わない?」


「そうね、アリスのほうが人数が多くてよ」


「・・そうね」


 睨む子たちはとても素直なのかもしれないと思った。私みたいに不愉快を隠して笑顔でやり過ごすより信頼できる人なのではないだろうか。


「あ、ジュード」今度はもう手を振るのはやめておく。また開始早々に勝ってあっけない。


「ねえ、ジュードとテオってどっちが強いの?」


「テオがジュードの先生だからね。まだジュードには負けないんじゃないかしら」


「そう・・」


 決勝にはジュードとハンカチくんが進んだ。2面に分けて使用していたコートを全て使って戦うため、二人の横顔がよく見える。


「始め!」の声に、ジュードのまとう空気が変わった。真剣な横顔に思わず見入る。


 二人の剣がぶつかっては離れ、すごい速さで繰り出される。ハンカチくんのほうが手数が多く押してる気がした。知らず知らずスカートを握りしめ、ジュードの勝利を願っていた。

 ジュードが押され、体勢が少し崩れたかのように見えた瞬間、ハンカチくんの重そうな一撃がジュードの防具に当たる。低い歓声と高い歓声が沸き起こり、ジュードは負けた。


 俯いて控えに下がっていくジュード。ハンカチくんがみんなに祝福される中、私はジュードだけを見ていた。


「シャーロット、先に戻って」


「わかったわ」


 ジュードをそっと追いかける。人気のない校舎の裏に向かっているようだ。私が行かないほうがいいかと思ったけれど、いてもたってもいられなかった。校舎裏の木陰に座り込む背中が見えた。ゆっくり近づいて隣に座る。


「ねえ、ジュード」


「・・」うつむいたままこっちを見てくれない。


「あなたをやっと近くに感じられた気がするの」


「こんなかっこ悪い俺が?」


「ジュードも負けることがあるんだなって」


「・・」


「私ね、記憶を無くしてからの自分に自信がないの。みんなは『天使のように優しい』って言うけど、全然天使なんかじゃない」


「・・」


「それをどうすればいいのかもわからないの」


「だけど、ジュードは今の私を知りたいって言ってくれた」


「今の私からみた今日のジュードはすごくかっこよかった。落ち込んでるジュードのそばにいたいって思った」


だからそばにいることを許してねと思いながら、ジュードの手を少し持ち上げてつなぐ。


「俺、もっと強くなりたい」


「うん」


そう言って二人で青い空を眺める。ジュードを見つめると、穏やかな眼差しに出会う。


「私も、もっと強く優しくなりたい」


「うん」


「約束ね」



短くてすみません継ぎ足しに挫けました。本日2話目です。週末の更新はお休みします。読んでもらえて嬉しいです。いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ