地獄耳
「サウサンク伯爵令息、わざとですか?」
「見ての通りデートです」
「そうですか」
それ以上追及しても無駄だと判断したのかディランは私を座らせて、自分も座る。
デート。テオがデート・・。私だって不本意だけどデートしているわけで・・。だけど、なんだかモヤモヤして気分が良くない。
「どうかなさいましたか?」気がつくとぼんやりしていた私にディランが話しかけていたようで、慌てて意識をディランへ向ける。
「いえ」ディランを見ると、特にテオを気にする様子もなく私を凝視していた。
「今日はあまり笑わないのですね」ほぼ無表情でそんなことを言われ「そうですね」と答える。
「僕はあなたに2度、一目惚れしました」
「え?」
「1度目は犬に襲われた日に。2度目は僕が落としたハンカチを拾ってくれてときに」
「・・・」
「1度目のときは、怖いはずなのに泣かずにできるだけ迷惑をかけないでおこうとしてるかのような様子にびっくりして、何年も忘れられずにいました」
「そうですか・・」
「2度目は、あなたを見てすぐにあのときの子だとわかり、可憐で美しく、キラキラと輝く瞳に釘付けになってしまいました」
「あ、ありがとうございます」
「ですが、あなたはイーストン公爵令息と婚約していた。だから諦めたんです」
「はあ」
「だが、婚約は解消された」
「ええ」
「諦めたつもりでいた気持ちが抑えきれず、このように無理を言ってでも知っていただきたかったんです、僕のことを」
「そんなに思ってくださっていたのですね・・」
「はい。起きているときも寝ているときもあなたのことばかり考えています。今日はどんなことで笑っているのだろうか、何か悩んだりしていないだろうかと考え、街で見かける服はあなたに似合うだろうかと考え、花を贈るならどんな花がいいだろうかと考え、あなたに見つめてもらえる男性になるにはどうしたらいいのだろうかと常に考えています」
「・・・ちょっと待ってください」
今、私は口説かれているという状況なんだろうか。起きているときも寝ているときも私のことを考えるって・・
「あの・・私に幻想を抱きすぎなのではないでしょうか」
「幻想とは?」
「私、あなたに嫌っていただけるようになるにはどうしたらいいのか真剣に考えるような人間です」
「嫌いになどなれません」
「鼻に指を突っ込んでいても?」
「げほっ」
隣の席から咳が聞こえた。
「鼻に指を・・ですか」
「嫌でしょう?そんな女性」
「あなたなら鼻に何を入れていても好きな気持ちに変わりない自信があります。証明するために、今やって見せてください」
「無理です死にます」
「どんなあなたも見てみたいです」
「まさか最終手段まで効果がないとは・・」
もうこうなったら誠心誠意きちんと向き合うしかない。テオをちらりと見てみると、微笑みながら相手と会話しているのでそんなには聞こえないだろう。
「実は・・好きな人がいて婚約について話しているというのは嘘です」
「それは本当ですか!?」嬉しそうに前のめりになるディランを手で制する。
「ですが、あなたのことを好きにならないというのは本当なんです」
「どうしてですか」
「友達があなたのことを好きだというのが1番の理由ですが、もし・・その友達があなたのことを好きじゃなくなったとして、もし私が誰かを好きにならなければいけないという状況になったとしてもあなたを選ぶことはありません」
「あなたを好きな気持ちは誰にも負けません」
「勝ち負けじゃないと思うのですが。それに・・ウイリアムもジュードも、私のことをとても好きでいてくれます。もう一人、私を好きだと言ってくれた人は他の女性とデートしているので、信用度はかなり低いですが」
「ゴホッ」
「私を一番好きでいてくれる人を選ぶのではなく、私がどうしようもないくらい好きな人がいい」
「どうすればそこまで僕を好きになってもらえますか」
「ならないんです。いえ、なれないんです。どうしても誰かを選ばなければいけないと言われたら、私はジュードかウイリアムを選びたい」
「あなたは彼らをどうしようもないくらい好きなんですか?」
「・・自分の気持ちについてはまた話が違います。自分の気持ちも、人の気持ちも思いのままにはなりませんね・・」
好きでいてくれる人に幸せでいてほしいとは思うけれど、好きでいてくれる人と一緒になって幸せなのかと問われるとわからなくなる。
自分が相手を死ぬほど好きで、相手が同じぐらいの愛情を返してくれないとき、私は壊れずにずっと好きでいられるのだろうか。
「恋愛ってなんて難しいんでしょうか・・」
「自分の気持ちにこんなにも我儘な私を好きになっていただき、ありがとうございました」
そう言って、ものすごく自分勝手だと自覚しながら頭を下げる。卑怯でもいい、これ以上ディランの時間を私に使わせたくない。
「どうしても駄目なんですね・・」
「はい」
「今すぐ諦めるのは無理ですが・・」そう言って少し寂しそうに笑う顔をみて、不器用なだけで良い人なのだと思い知る。
ふと視線を感じ、テオを見ると恐ろしいほど優雅に微笑んで私を見ていた。
あ・・怒ってる・・




