交換条件
シャーロットの顔の横に手をついたお兄様。邪魔しないように少し離れて見守っていると、なんだかお兄様がモジモジしている。
あれ?もしかしてお兄様ってば何していいかわからないのかしら。
ん?シャーロットがなんか囁いた?と思ったら
お兄様が膝から崩れ落ちた
え。何言ったの?
何が起きたのかわからず固まっていると、シャーロットが「脈」と私を手招きする。慌てて手首を掴んで見ると、私の鼓動と比べてほんの少しはやいけれど、乱れた脈ではなかった。
「何言ったの?」
両手で顔を覆ってしゃがみ込むお兄様を見ながら尋ねたら、内緒話をするように「1日ずっと私のことを考えなさいって言ってみたの」と教えてくれた。
うふふと笑うシャーロットにテオと同じ遺伝子を感じ、内心でブルブル震えてしまう。お兄様は本当に震えていたけれど。その日の午後は授業に身が入らず、帰りの馬車ではお兄様が挙動不審だった。
□ □ □
「おはようございます」キリッとした声に固まる。
「おはようございます」見上げるとディランが立っていた。
最近ずっと警戒していたから、教室で話しかけられることもなかったのに、今朝は昨日のことをぼんやり考えていて、完全に忘れていた。思わずリジーを探したけれど見当たらず諦めて
「何か御用でしょうか?」と尋ねる
「今日、僕と一緒にランチをとっていただけませんか?」
断りたい。だけど断ってもまた同じことの繰り返しになる気もする。ジュードかテオに同席してもらおうかと一瞬考えたけれど、
「兄も一緒でよければ」
「・・構いません」
まだ時間に余裕があるのでアーサー兄様にお願いしに行く。約束を取り付けて帰ろうとしたとき、
「おはよう、アリス」甘い声
「おはよう」目の前に立っているテオの顔を直視できなくて、顎に挨拶した。
「お昼、一緒に食べよう?」
「先約があるの」
「誰と?」
「ディラン様と。アーサー兄様も一緒よ」
「それ、僕も一緒じゃダメ?」
「うーーん・・その提案を彼にするためにまた話さなきゃならないのは少し困るかな」
「わかった。じゃあ僕の方でなんとかするよ」また後でねと私の頭を軽く撫でた。
お兄様と食堂に入ると、真ん中に近いところに座っていたディランが立ち上がり知らせてくれる。席について軽く会話をしながら食事を終え、
「で、アリスに何か話があるんだろ?」
「はい。一度、僕とデートをしてください」
「え?」
「このままでは僕のことを知っていただけないですから」
「えーっと、私には好きな人がいると申し上げましたが」
「アリスの好きな奴ってテオだっけ?」
「お、お兄様・・今は誰を好きなのかは重要じゃないです」
「あなたが誰を好きなのか非常に気になりますが」
「答えるつもりはありません」
「だが、その男性と婚約の話が進んでいないのであれば、僕とデートできますよね?」
「いえ、ですからあなたとはデートしません」
「デートしていただけるまで諦めません」
堂々巡りだ。それなら・・
「では、条件付きでよろしければ」
「条件とは?」
「1度だけあなたとデートします。その代わり、私の友達ともデートしてみてください」
「それは・・困りますね」
「私も困っているのに了承しようとしてますが」
「・・・・・わかりました。その条件のみましょう」
「なんでいつも少しえらそうなのかすごく気になりますけど・・」ついぼそっと呟く
来週の土曜に約束をして、ディランだけ先に食堂を出ていった。
「で、テオは聞こえてたの?」ディランの後ろの席に座っていたテオにお兄様が声をかける。
「大体は」そう言いながら私の前の席に座り直す。
「アリスはそれでいいの?」下から覗き込むように尋ねてくるテオに
「ああでもしないと納得してもらえそうにない・・でしょう?」
「デートなんてせずに、僕の婚約者になる方法もあるよ」
「こっ・・」
「こ?」
「な、なんでもないわ」そう言って横を向いて誤魔化した。
勝手に約束をしたけれど、リジーに話しておこうと探す。幸い、食堂にいるのを見つけたので先程のことを説明する。
「というわけで、不本意だけどデートするわ。だからあなたもディラン様とデートしてね」
「・・わかったけれど、感情が追いつかないわ」
「複雑でしょうね」
「ええ。ディランさまとデートできるのは嬉しいのに、本人の意思ではないし、ディラン様が思慕するあなたからの提案だなんて、わたくしのプライドもジクジクと刺激されて怒りたいのか喜んでいいのかもわからない」
「できるだけ嫌われることを意識して行動するから」
「あなたを知れば知るほど不安になるのだけど」
「・・・私も不安だから、ちゃんと周りに聞いてみます」
「そうして」
□ □ □
「と、いうわけなの」
「嫌われるような行動を教えて欲しいってこと?」
「アリスが他の人とデートするなんて嫌だ!」




