突然、混沌(ほんのり韻)
「なのに覚えてないんだもんな。小さい頃のこととはいえ忘れすぎだな、アリスは。あれだけ僕について回ってたのに、急についてこなくなったし」
「・・・」
「記憶になくてもアリスの最初のキスは僕がもらったよ。今でも大切な可愛い思い出だから」
「・・・」
「僕も2回目のキスは僕の合意なしだったんだ。びっくりしたし戸惑いしかなかった」
「・・・」
「アリス、おまじない」
「え?」
「嫌な部分だけ消してあげる」
「うん?」
いつの間にか厩舎についていて、テオが馬から下りた。私を抱き上げるようにして馬から下ろす。
ふわっと頬に唇が触れた
触れるか触れないかぐらいにそっと。なのに、まるで魔法のように心が軽くなる。
「テオ兄ちゃま、ありがとう」
「ちゃんと消えたでしょ」
「うん」
「楽しい思い出まで消す必要なんてない。誰にキスされたってアリスはアリスだよ。あと、僕のことは全て僕に確認するようにして」
「う・・ん?」
保健室で手当てを受けたけれど、テオの完璧な対応のおかげで数日固定するだけで良いと言われ、念のため早退することにしてテオに見送られて馬車に乗る。
帰宅してからも気分が軽く、またテオと話せると思うとつい笑顔になってしまう私を見て「よほど良いことがあったんですね」とルナが笑う。
夜、宝石箱からガラス玉の指輪を取り出して、ただ見つめながら眠った。
□ □ □
教室に入るとウイリアムがやってきて、いつものように私の前に座る。
「アリス、痛かったよね」と悲しそうに眉を下げながら、私の腕を擦り始めた。
「大丈夫、もう全然痛くないから」そう言っても、
「ごめんね、痛かったよね」と繰り返し擦る。ウイリアムが壊れたみたいな気がして困っているとテオがやってきた。
「テオ・・ウイリアムが壊れた」
「もともとぶっ壊れてるんじゃないか?」
「最近のウイリアムを見てると否定できない」
「アリス、久しぶりにランチ一緒に食べよう」テオからの誘いに「うん」と嬉しくてつい声が弾む。
「アリス・・」ウイリアムがキューンとないた気がした。
「ウイリアムも一緒にいい?」
「仕方ないな。ついでにみんなで食べるか」
□ □ □
「あなたは・・イーストン公爵子息と婚約しているのではないのですか」
そう声をかけてきたのはディランで
「お答えできません」いきなり訊かれても答えていいのかわからず濁す。なぜ少し怒った口調で偉そうなの?
「婚約していない前提で進めます。もう次の婚約の相手は決まっているのですか?」
「・・お答え致しかねます」
「質問を変えます。好きな男性はいますか?」
「それも答えられません。どうしてそのような不躾な質問をされるのでしょう?」
「決まった相手がいないのであれば、僕と婚約してほしいからです」
「はい?」
びっくりしすぎて頭がクラクラした。期待を抱かせるわけにはいかない。だから「好きな人はいます」と答えた。あなたと婚約するようなことはありませんという意味で。
「そうですか。でしたら僕にもチャンスがありますね」とキリッとした顔で言われる。
「は?」
「好きな人はいますと答えられたということは、その人と婚約するほどの仲ではないと受け取ります」
うう。確かに婚約を約束するような人なんていない。でもあなたとだって婚約なんかしないわ!
「い、いえ・・その方とそうなれたらいいなあ・・なんて話したりしてますし」
「それでも僕にもチャンスがあると受け取ります」
何だこの人は。ウイリアム2号か。壊れてるのか。
「困ります。あなたのことは好きになりません」
「僕を知ってから決めてください」
「好きになれないんです」
「なぜですか」
「あなたには私より素敵な女性がお似合いだからです」
「あなたより素敵かどうかは僕が決めることです」
誰か助けて。
「アリス」聞こえてきたのはジュードの声。
「何を話してるの?」
「うーん・・」
「婚約を解消したのであれば、僕と婚約して欲しいと申し込んでいたところだ」
「は?」
「君たちが婚約を解消したと噂になっている。彼女に尋ねたが『答えられない』と言われた」
「当たり前だ」
「だが、答えられないということは肯定ととれる」
「それ、今こんな場所でする話か?」
周りをみると、ちらちらと私達を見て通り過ぎていく人や、遠巻きにじっと眺める生徒が目についた。
「構わない。隠すつもりがない」
「君が構わなくても、アリスが困っている」
「困っています」大きく頷いて困惑をアピールしても
「困らせるぐらいのことをしないと彼女の気持ちは動かないと判断した」
「やっぱりウイリアム2号・・」
「僕のこと呼んだ?」そう言って現れたのはウイリアムで。
何このカオス。
「なんか楽しそうだね」最後に現れたのがテオで
全員揃ってサロンwith2号 いまここ。
□ □ □




