食べられる
どこか物足りない気持ちを抱えているのが嫌で、1人の時間を意識して作る。息をするように他人に合わせてしまう部分がたまにものすごく疲れるので、1人の時間が大切なのだ。
木陰を探しながら裏庭を進む。校舎からかなり離れた奥の大きな樹を見つけ、根元の濃い日陰に座る。ここなら誰にも見つからないだろう。
持ってきた本に目を落とすけれど、なんにも頭に入ってこない。本を諦めて目を瞑る。風で葉が揺れる音が心地良い。頭や心がごちゃごちゃしたときは、自分がどうしたいかだけを考える。
今まで通りテオと話したい
それだけ。だけど避けられていて、それが寂しくて少々拗ねているなあと思う。だって、あれだけ私に色々仕掛けてきたくせに、急に引くなんて勝手すぎない?ううん、これは違う。テオを勝手だと責めるのは違う。寄ってくるのも離れていくのもテオの自由だもの。もっとシンプルに自分の心を見つめる。寂しい。テオと話せなくなって寂しい。
ウイリアムに突然避けられるようになったとしたら、私はどう思うんだろう。きっと同じように寂しい。ジュードだとしても同じ。うーん・・違いがわからない。
あれこれ考えてもまとまらない。こういうときは「何もしない」何もしないことに飽きてきたら動く。それでいいよね?
何もしないことを決めたので少しスッキリして立ち上がる。暖かさを増す春の風にほんの少し夏の気配を感じながら歩く。ふと、前方の木の幹に女子の制服のスカートが見えた。誰かいるのかなと通り過ぎるときに目を向ける。
テオだ。
テオが女子と一緒にいた。思わず立ち止まってしまいそうになる足を誤魔化しながら進む。テオが私を見る。目が合った。無表情を装い、すっと通り過ぎる。
何も感じない。何も感じてなんかいない。寂しい気持ちも、モヤモヤする気持ちも感じてなんかいない。気になるのは友達として。テオが私じゃない女の子をからかっていたとして、傷ついたりしない。気がついたらかなり速く歩いていて、息が切れていた。
「アリス!」ウイリアムの声に振り向くと、中庭から銀色の髪を太陽の光でキラキラと輝かせてやってくる。
「中庭で何をしてたの?」
「アリスを待ってた」
「そう。なになに?」
「今日うちに来ない?」
「んー・・行く!」
「じゃあ帰りはうちの馬車に乗って」
「わかった」
授業が終わり、ベストル家の馬車へ向かうとウイリアムが待っていた。二人で乗り込んで、また作れるものの話になる。日本で生きていたあおいの部分がある限り、無尽蔵にアイデアはある。問題はこの世界で作れるかどうか。小さい頃から本ばかり読んできたウイリアムには実現できるかどうか判断できる知識があり、話していると楽しくてしょうがない。
今日は久しぶりにウイリアムの私室へ通された。
「久しぶりにこの部屋に入ったけど、内装変えたんだね」
「あ、うん」
「相変わらず興味ないのね」この部屋もきっとウイリアムの希望で変えたわけではないのだろう。そう言うと
「作業しやすいようにある程度は口を出したよ」と返ってきた。
「あら、意外ね」
「アリスのアイデアを形にできるか試すために大きな作業机が欲しかったし」
「進めてくれてたのね、ありがとう」
「今日はいくつか試作品を見てほしくて」
そう言って机からソファまで持ってきたのは四角い箱。「なあに?これ」
「エネルギーボックス」
「ええ?」
「エネルギーを蓄えておけるように水晶を入れて循環できるようにしたんだ」
「ええ!」
「ここから外部に繋ぐとアリスが言ってたデンキと同じような力になるはずだよ」
「すごすぎる・・ウイリアム天才!!」
「バートに協力してもらったけどね」
「じゃあ2人とも天才!!」
あんな漠然とした話からどうやってこんなものを作り出せるのか。凄すぎて感動して涙が出そうになる。
「凄い・・凄い」
「アリス、さっきから凄いとしか言ってないよ」
「だって本当にすごいから」
仕組みがどうとか理解できないけれど、ウイリアムが凄いことはわかる。歴史的瞬間に立ち会えてる気がしてぷるぷる震えていると頬に何かが触れた。
箱を抱えて手が塞がったまま、何かを確かめるためにぼんやりと横を向くと、ウイリアムの顔が目の前にあり、今度は唇に何かが触れた。
「ん?」
「アリス?」
「んんん?」今、私に何が起きているんだろう。
「現実に意識が戻ってこない」
「あ、ちょっと待って」と言い、ウイリアムが私から箱を取り上げテーブルに置く。
「アリス、僕の目を見て」そう言いながら私の顎に手を添える
「うん」
今度はしっかりキスをされた。唇ってこんなに柔らかいのね。
「!!」やっと現実に意識が合う。手遅れよね、これ。あはは
「ウイリアム?」唇は離れたけれど、ウイリアムはまだ近いまま。
「アリス、好きだよ。ずーっと大好き」
「え?」
「僕を見て。僕だけを」
「ええっ?」
今度は頬にキスをされ、次は鼻、おでこ、目蓋、耳、そしてまた唇へと戻ろうとしたとき、ウイリアムの胸を押す。
「ウ、ウイリアム!」
「なに?」
「やめて」
「やめたくないし止まらない」
「ひっ」
「アリスは僕のこと嫌い?」
「嫌いじゃないわ!大好きよ。でもこれは違うと思うの」
「違わないし、少しでもアリスの中に僕を刻みつけたいから」
「お願い、離して」
「今離したら僕を嫌いになっちゃうかもしれないからダメ」
「ならない!ウイリアムのこと嫌いにならないから、耳にキスするのやめて」
「だってアリスの耳可愛くて美味しいよ」
「っ!!だからそういうこと言わないで」
「ほんとのことだし」
「なんで押してもびくともしないの!?」
「わりと鍛えてる」
「そう・・って自慢しないで!離して」
「アリスの頬、食べていい?」
「いや食べちゃダメだし、そもそも今していいか尋ねてるけど、キスしていいかどうか尋ねなかったよね?!」
「うん。尋ねたら断るでしょ」
「ええ!もちろん断るし、今も断ってるからね!」
「じゃあ食べる」そう言って私の頬をハムハムと唇で挟んでくる。
「ひえ」
「アリスの頬も美味しいね」
「もう、泣くわよ」
「僕の腕の中ならいいよ」
「もーーー!どうすれば離してくれるの?!」
「僕のこと嫌いになる?」
「離してくれないならなるわ」
「んー・・・やっぱりまだダメ」
「ひっ」




