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テオの魅力

テオの何か強い感情を抱えている視線に、私の胸まで締め付けられる。テオはもしかして、テレサ様のことを?それとも違う何か?コートに目を戻すとテレサ様は1人で前衛の位置についていた。

そっともう一度テオを振り返ると、さっきの目は消えていて私に気付き微笑む。そうか、あれほどの激情を抱えていても、私に優しい笑顔を向けられるのだ。なんて強くて優しい人なんだろう。そうじゃないなら大嘘つきだ。

 テレサ様の試合中もテオを振り返りたくて仕方がなかったけれど我慢した。見ごたえのある試合でテレサ様のペアが優勝し、また二人で抱き合って喜んでいるのをテオはどんな顔で見ているのか振り返って確かめることはできなかった。

 剣術大会も近づいてきたしテオのことが気になって仕方がないので、社交倶楽部に顔を出した。久しぶりにリジーとも話す。リジーは剣術大会のディラン様を観るのが楽しみらしく、心ここにあらず状態だった。

 テレサ様にペアの男性はどなたですか?と尋ねると、「私の婚約者なの」幼い頃に婚約し、とても大切な人だと幸せそうに微笑む。うーん・・謎は深まるばかり。


 お昼休み「アーリス♡」と甘い声が聞こえた。声のした方向を見ると、テオが教室に入ってくるところだった。


「どうしたの?」

「アリスとランチしようと思って」

「じゃあシャーロットと3人で行く?」

「シャーロットは裏庭に行くよね?」

「・・・」何も言わないシャーロットの顔が赤くなっている。


「シャーロット、可愛くてよ」

「アリスも可愛くてよ」そう言いながら、私の頬をもにゅもにゅと摘む。

「自分が赤くなってることには気がついてるわけね」

「あなたも赤くなってるわよ」

「物理的にね」


 シャーロットとしばし戯れているのをテオが笑っている。すぐにいそいそと王子のもとへ向かうシャーロットを見送ると

「二人きりで食べようね」と少し屈んで私の耳元で楽しそうに呟いた。

「う、うん。久しぶりに二人きりな気がする」

「アリスはジュードが好きになっちゃった?」

「ものすごくストレートな質問」

「じゃあ・・アリスはジュードに恋してる?」

「今の質問の「じゃあ」がどこにも活きてない」

「答えて」

「私はまだ誰にも恋してないと思う」

「どうして?」

「恋しなきゃいけない?」

「僕を好きになれば?」

「好きになろうと思ってなれるの?」

「なれるよ」

「な、なれるの?」

「僕はアリスを好きになろうと決めて好きになったよ」

「・・ん?」

「アリス可愛いし」

「う・・ん?」


 テオの謎がさらに深まる。


 二人でランチを買ってテーブルにつくと、どこから出してきたのかブランケットを私の膝にかけてくれた。


「テオは今までに誰かを好きになったことある?」

「アリス」

「私じゃなくて」

「あるよ」

「その人とはどうなったの?」

「好きだから諦めた」

「ん?」

「それ以上好きでいても、どうにもならない恋もあるってことだよ」


「テオ、今も辛い?」

「もう全然」

「ほんとに?」


「アリスどうした?」

「辛いなら何かチカラになれないかと思って。恋愛はまだわからないけど、テオのことは大好きなんだよ」

「僕としては恋愛の好きになってほしいんだけど」

「あはは」

「今、ものすごく乾いた笑いだったね。僕が湿らせてあげようか?」

「湿らせるって?」


「こうやって」近づいてくるテオの顔に一瞬見とれて動きが遅れた。チュっという音とともに頬に唇の感触。


「セーフ」急な接近に鼓動が速くなる。


「唇狙ってたのに」テオの向こうに見える令嬢たちが固まっているのが見えた。


「でも、テオが無理矢理そんなことをすると思えないから、最初から頬を狙ってたんでしょ」

「おお!アリスも言うようになったね」そういって笑うテオの顔は美しく、憂いの色は見つけられなかった。やっぱりテオが謎すぎる。でもなぜか、前よりテオのことが好きになった気がする。人間としてだけど。


□ □ □


 いよいよ剣術大会。学年ごとに上位3人ずつ選ばれ、テオは昨年も優勝だったので決勝で登場するらしい。ジュードも選ばれ、初戦は2年生とあたる。ディラン様も選ばれていて、順当に勝ち上がれば準決勝でジュードと対戦する。

 自分の実力を「テオにはまだ勝てない」と判断しているらしく、無駄に力が入ってなくて調子が良いと言っていた。優勝することが目的ではなく、一戦一戦に集中して技を高めるのが目標らしい。


 ディラン様もジュードも順調に勝ち進む。1年生でこれだけ勝ち進むなんて、二人の強さがよくわかる。あと1試合勝てば準決勝という試合で、ジュードもディラン様も開始1分も経たない内に勝利した。


「またこの二人の対戦なのね」

「なんかジュードに集まる歓声が増えてるわ」

「背も伸びて、精悍な顔つきになってきたと思わない?アリス」

「思う。優しいのにキリッとした雰囲気になってきたというか」


「顔を動かさずに向かいの観客席の前から5列目辺りを見て。あの子、前回もジュードを応援していたわよね?」

「ええ。今でも時々廊下で会うと番犬がちゃんと仕事してる」

「あの子たちとは仲良くなりたいと思わないの?」

「全く思わない」

「清々しいほどの拒否ね」


「大人しいふり、か弱いふりをして守ってもらおうとする女性は苦手なの。それを私達が守ってあげる!ってやってる子も苦手」

「貴族女性の全てを敵に回す気?」

「可愛いふりをする女性は苦手じゃないわよ」

「じゃあ私のことは苦手じゃないのね」

「シャーロットは可愛いふりをしてるんじゃなくて、可愛いの。あなたがか弱いふりをしたとしても大好きよ」


「アリスは強くなったわね」

「天使になんてなれないもの」

「天使を目指していたの?」

「以前の私は天使のようだったと言われたわ」


「私の知ってるアリスは天使ではなかったわよ」

「・・え?」


 詳しく聞こうと思ったとき、歓声が上がる。休憩が終わったようでジュードとディラン様が出てきた。今回は手を振らずにただ見つめているとジュードと目が合う。頑張って!の意味をこめて、少し強めにぶんっと頭を頷いてみると、ジュードが笑った。

 試合が始まり、剣がぶつかる。ジュードの戦い方の変化に驚く。この半年ほどでどれだけ身長が伸びたんだろう・・すべてが力強くみえる。試合を楽しんでいるように見えるけれど、時間内に決着がつかず判定になり、惜しくもジュードが負けた。でも・・健闘を称え合うジュードの顔は晴れやかな笑顔で、悔しそうなのに落ち込んでいるようには見えなかった。


 いよいよ決勝。テオが登場すると会場中の人が歓声をあげ、会場が揺れた。優雅にお辞儀をしてみせ、黄色い悲鳴があがる。今日は貴族の令嬢も声を抑えられないようだ。

対してディラン様への声援は小さかった。前方に座るリジーがそわそわしていて可愛い。


構えの姿勢から試合が始まる。ディランが攻めるのをすっと躱すだけでテオは手を出さない。

何手かいなした後、すっと腰を落とし二人が交差した。ディランがぐらついて膝をつく。

テオの圧勝だった。


大歓声に包まれながらシャーロットと手をとりあって喜ぶ。

「テオすごい!かっこいい!」と大きな声で言ってもシャーロットに聞こえないぐらいの歓声の中、テオがさらっと髪をかきあげ、令嬢の熱いため息は聞こえた。どれだけの人数が一斉に吐息をもらしたのか。


会場が落ち着いてきたころ、テオが私を見た。

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