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イベントの秋

「はーい」


返事とともにポンっと現れた。


「お腹は空いてない?」

「空いてる!」いつものようにお菓子を差し出し、食べるのを眺める。


「今日はジュードの誕生日だったの」

「知ってるよ」喋るためなのか頬の右側が膨らんだ。口の中のものを全部右側に寄せたのが可愛い。


「すごく楽しかった」

「うん。はいどうぞ」

「ん?」

「ジュードのラブゲージ知りたいでしょ?」

「あー・・・うん」


「105」

「・・はい?」


「100超えちゃったね!」

「超えるものなの?!」


「レアだけどね」

「す、すごいね」


「他にも知りたい?」

「知りたくないです」


 クッポも私もニコニコしている。ニコニコ笑顔の裏で、圧を飛ばし合っていると、クッポが小さい黄色の羽を動かしながら奇妙な動きをし始めた。

 何してるんだろう?くるっと空中で回ったりしてる。何か描いてるような。


 ○と1?

 

 1にしてはなんか変だな・・・ああ!7か。


 7と○


 ・・・・・・。


「クッポ、一回お仕置きというものを経験してみる?」にっこり笑顔を貼り付けて尋ねてつかまえた。

「な、なんで?」


「今、70って描いたよね?」

「ひゅ〜」と口を尖らせて口笛を吹こうとしているけれど、

「それは口笛じゃなくて、声を出してる。そしてなんか誤魔化し方が古い」

「うぐ」


「70・・テオの数字?」動作で数字を披露した手前、口で返事するのは違うらしくコクコクと頷いている。

「下がったね!」

「そうだね!」目をキラキラさせてコテンと首を傾げたけれど、毎回勝手に数字を伝えられることへの怒りは収まらない。


「お仕置きね!」クッポのお腹に顔を埋めて、はー!っと熱い息を吹きかけた。


「あつあつあつあつ!熱い熱い!くすぐったい!アリスごめん!」 


 随分ぬるいお仕置きだったと思うけど、可愛いから許す。そのままふわふわもこもこも堪能させてもらって、眠たくなってきたのでベッドに入った。


「テオのゲージ、どんどん下がるね」

「会ってないと下がるよ」


 そうか。気持ちだけじゃなくどれだけ会うかも重要なのか。テオの気持ちに応えられるかわからないし、下がってくれて安心した部分もある。好きだと言われて、その期待に応えなくちゃと無意識に負荷をかけてしまう。関わる人全員の好意を望んだり、維持しようとして自分が無理したり疲弊するのはおかしいと思うのに、無意識でやってしまうことだから気づくのは難しい。・・また難しいこと考えてるなと気がついて、クッポを撫でながら目を瞑る。気がつくと朝になっていて、クッポは消えていた。

 

 2日ほどゆったり過ごしてから領地に向かう。緑豊かな土地に賑わう街もあり、丘の上に立つ屋敷は風がよく吹いて涼しい。ジュードのイーストン領、シャーロットのサウサンク領、ウイリアムのべストル領は隣り合っている。小さい頃から親同士が親しくしていて、幼なじみのように育ったらしいけれど、ジュードの記憶は戻っていないので曖昧な部分も多い。

 みんなで2回ほど集まっただけで夏休みが終わる。1度サウサンク領の湖でテオとボートに乗った。妹を見るような目に戻ってる気がしたけれど、口では「アリス大好き」と言ってくるのでよくわからない。拍子抜けするほど動きのない穏やかな夏休みだった。


□  □  □


 イベント目白押しの秋の学期が始まった。刺繍のクラスは春から取り組んでいる作品をそれぞれ展示して、見た人に1番良いと思った作品を投票してもらい、最優秀作品を決めるコンテストのような展覧がある。ハンカチにクッポを小さく刺繍するのがやっとだった私の作品は対象外レベルだと自覚している。でも、謎の犬みたいに仕上がるかと思ってた割にはかなり良くできて気に入っている。シャーロットは夏休み中もずっと制作していたらしく、繊細な花を散りばめた大作に仕上がっていて、見せてもらったときにあまりの美しさに感嘆のため息と制作過程の長さを思って涙がでた。私なんて2日頑張っただけなのに。


 剣術大会、馬術大会など各スポーツの大会、絵画の展覧、10月になると続々と開催される。このイベントをどう制したらラブゲージが上がるのさっぱりわからないけど、誰かのゲージを上げたいとも思ってないから問題ない。11月のテニスの大会に出てみようと思っている。


 イベントが多いせいか、学園全体が賑やかな雰囲気になってきた。まずは刺繍展示。大作が多く展示される中、隅っこの方にちょこんとハンカチが並ぶ。


「しょ、しょぼい・・」思わず小さく呟いてしまった。


 開催1週間ですぐに結果が発表され、シャーロットは2位。私のクッポに一票入っていて驚く。世の中には変わった人もいるのねなんて思っていたら、ジュードが「あのハンカチが欲しい」と言ってきた。


「まさか・・私に一票入れた?」

「うん!刺繍苦手なのに頑張ってたし、あの動物も個性的で可愛いから」


 私の作品を見つけてくれて、それを欲しいと言ってくれるジュードにプレゼントした。


 次は馬術大会。テオとウイリアムが出場し、障害物を避けながらタイムを競う競技はテオが優勝、ステップの正確さや美しさを競う競技はウイリアムが3位。


 そして今日はテニス大会。男女ペアはイーサンと組んで出場し、2日後にシングルでも出場する。

恥ずかしいから誰も観に来ないでと頼んだ。来てないといいけどとこっそり観客席をチェックしたら、シャーロットもテオもウイリアムもジュードもいた。まあ・・確かにみんなニヤニヤしてるだけで「わかった約束する」なんて一言も言わなかったけれど。


 スコートほど短くはないスカートを履いている。動きやすいように膝より少し上の丈で、あおいとしては抵抗感ないけれどこの世界ではテニス以外で見かけない丈。もとの世界、見えてもいい下着を履いてまで短いスカートを履く文化ってもしかしてなにかおかしかったんだろうか。

 出場する女子は皆可愛いウエアを着ていて、テニスコートが華やかに見える。


「じゃあ、頑張ろうね」

「よろしく」イーサンと握手を交わしてコートに向かった。


 ぬるい。観客がいるからか、出場令嬢のプレイがぬるい。普段の試合でそんな可愛らしい動きしてないじゃないかと大声で突っ込みたくなる。しっかり打ち返してくるのはさすがなんだけど、打ち返せなかったときに「ショックですわ」と悲しそうだけど優雅に微笑んでいる。以前は鬼の形相で悔しがっていたではないか。もともと転んでしまうほどにはボールを追いかけたりしないけれど、今日は体勢が崩れそうな位置のボールも追いかけない。

 コートチェンジのときに「今日は上品なプレイをしなきゃならないルールでもあるの?」とイーサンに尋ねると「聞いたことないよ。アリスもそうする?」と真顔で提案される。これをやって負けてもいいと思えるイーサンの寛容性がすごいと思った。


あっけなく一回戦に勝利し、三回戦まで勝ち進んだ。次は準決勝。さすがにここまで進むとみんな真剣にボールを追う。準決勝はテレサ様のペアと対戦で、どんなボールにも優雅に追いついて打ち返す姿に思わず見惚れた。かなり良い勝負で結果的に負けたけれど、爽やかな気持ちでテレサ様と握手を交わす。「素敵でした!」と伝えた私の目からハートが飛んだかもしれない。


決勝前に1時間の休憩があるので、シャワーを浴びて着替えて観覧席に行く。みんなと合流してジュードの隣、テオの斜め前に座る。「アリス、髪が乾ききってないよ」そう言って髪を触るのはジュード。テオが何もしてこない。70になるとこういう感じなのかな?と思ってテオの顔をみると、にっこりと微笑まれる。うん、なんか違う。


コートに決勝戦に出るペアが登場した。イレーヌ様は見に来ているのかな?と見渡してみると、なんとアーサーお兄様と一緒に並んで座っているではないか。親しい関係だったのかとテオに尋ねようと振り返ったら、テオが切なくてたまらないという表情でコートを見ていた。

私が振り返っていることにも気づかずにコートを見ているので目線をたどると、テレサ様がペアの男子に抱きしめられていた。


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