アオハルデート
「はっ!」
「なによ」
「リーズ伯爵様とリズ、名前が似すぎていてややこしいのでは」
「だからなに?」
「だってもしお二人が結婚なさったら、リズ・リーズになってしまいます!」
「けっ・・こん?」エリザベスの顔が真っ赤になってしまった。
「でも私が勝手に呼ぶのですからエリザベス・リーズ様は何もおかしくないですね」
「っあなたね!」ああ、どうしようもうゆでダコ並みにエリザベス様が真っ赤だ。恥ずかしがらせてしまったのか、怒らせてしまったのか判断に迷う。
「すみません長々と。後々のことを考えてリジーと呼ばせてください」
「もうなんでもいいわ・・」
少しぐったりしてしまったリジーに明日からよろしくお願いしますと挨拶をして、馬車へと向かう。予想通りジュードが待っていた。
「ジュード聞いて!」やっとリジーとの関係が前進したのを聞いて欲しかった。
「え、どうしたの?」
「ここじゃ話しにくいから」とジュードの馬車へ向かう。興奮気味にさっきのことを報告する。
「仲良くなれるかもしれない」そうしたらもっと優しくなれるかも。優しくなれたら、中身の黒い部分を少しでも白く変えられるかもしれないから。
「そっか、良かったね」呆気にとられたような顔をしていたけれど、私の話が終わると優しく笑ってくれた。
「やっと笑ったね。最近ジュードが怒る顔をよく見てたから」
「ごめん」
「私が原因なんだから謝らないで」
「アリス、僕なりに色々考えたんだ」
「うん?」
「テオとデートする前に、僕とデートして」
「はい?」
「アリスは忘れてるだろうけど、僕たちデートらしいデートしたことないんだ」
「そうなの・・」
「テオと出かけなきゃならないのは嫌だけどわかった。でもアリスの初めてのデートの相手が僕じゃないのは受け入れられない」
「・・わかった」ジュードなりに我慢しようと考えた結果に少し胸があたたかくなる。土曜日に二人で街へ出かけようと約束して馬車を降りた。
ルナに着替えを手伝ってもらいながら、今日の出来事を話す。土曜日に何を着ていけばいいのかわからないので、ルナに用意をしてもらうことにした。
今日は色んな人と会って疲れたけれど、リジーとお近づきになれたことで疲れを凌駕する達成感を噛み締めながら眠る。
朝、学校について馬車を降りると今日もテオが待っていた。
「またいるのか」そう言ってアーサーお兄様は呆れ顔。
「大丈夫だと思えるまでは朝のエスコートをさせてね」と私の耳元でそっと呟く。うう、くすぐったい。教室まで向かいながら「今日のお昼休みにでも社交倶楽部に顔をだそうと思ってます」と伝えると、ホッとした様子で「ありがとう」と言われた。
お昼休み、シャーロットとランチを手早く済ませて社交倶楽部のサロンへ向かう。たくさんの人で賑わっているかと思ったけれど、イレーヌ様とテレサ様だけだった。お二人に「令嬢から受けた嫌がらせや、小さいことでも気になったことを教えて」と細かく尋ねられる。
シャーロットと二人で観に行った剣術クラスでのこと、シャーロットがルーカス王子とたまに中庭で話していること、ディランのことで誤解があり、昨日その誤解を解いてリズと親しくなったことを話す。
「予想以上にアリス様は目をつけられてる数が多いわ」少し困ったように微笑むイレーヌ様に「テオのファンは対処済みだけど、ディランとジュード様の対処が必要ね」とテレサ様が答える。
あれ?今の違和感はなんだろう。何かがひっかかると首をひねっていると、
「ああ、ディランは私の弟なの」
「あ!テレサ様と髪の色が同じだなと昨日思いました」
「顔も似ているでしょう?」と言われ、そういえば似てる気がする。
「ディラン様も人気が高い方だと思いますが、私とディラン様との関わりはありません。昨日誤解も解けたので大丈夫だと思います。あ!もし良ければリジーをこちらに誘ってもよろしいですか?」
「そうしてくださると助かるわ」
お昼休みが終わるギリギリにリジーを捕まえて「テレサ様はディラン様のお姉さまなの!」と張り切って報告したら「知ってるわ」と言われてほんの少しへこんだ。
□ □ □
土曜日、襟元と袖に細いリボンと刺繍が施してある白いブラウスに、キュッとウエストを絞ってふわりと広がる水色のビスチェからつながるスカート。足首まである丈なのに動きやすくて軽い。髪もサイド だけ編んで後ろでまとめる。ルナが「お似合いです」と太鼓判を捺してくれた。
迎えに来たジュードは白いシャツに茶色のパンツでシンプルな装いだけど、にじみ出る気品がありあまり扮装できてない気がしたが良く似合っている。
お互いの格好を無言で眺め合うこと数十秒、
「その・・すごく似合っててかわいい」と照れながらジュードが褒めてくれた。
「ジュードも似合ってる。でも貴族の雰囲気が隠しきれてないかも」
「それはアリスもだと思う・・」
街に馴染むための服装なので貴族とバレたところで困らないかとそのまま繰り出す。
「デートって何するの?」
「街を見て回って、お店を予約したからランチしよう」
さっそく普段行けないお店を見て回り、今度の誕生日のためになにかジュードが欲しがっていないか観察しつつ、美味しそうなクッキーを見つけたので買おうとしたらジュードが買ってくれた。
ジュードと歩く街は新鮮で楽しい。ショーウインドウを覗きこむと隣にいつもジュードの笑顔が映る。私が興味を惹かれたお店は必ず「入ってみよう」と声をかけてくれた。
ランチはレストランの個室を予約してくれていて、二人で人目を気にせずおしゃべりしながら食べる。店を出て、また少しお店を見て回り帰路についた。「楽しかったね」と大満足でデートを終えて、こんなに楽しいならテオとのデートもちょっと楽しみになったかもと思いつつ眠る。
テオのデートが破壊力あるなんて知る由もなかった・・
ブックマーク登録ありがとうございます。今日のも短めです。
※リズ表記修正しました