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08 舞踏会

 今日の舞踏会はいつもエスコートしてくれるトレバーが、急な用事で欠席し、渋る義弟にエスコートしてもらった。彼は会場に入るとすぐにどこかへ行ってしまう。レティシアが相当嫌なのだ。


 だがきちんと役目は果たしてくれた。それに綺麗な彼と、こちらだってあまり長く並んでいたいと思わない。どうしても見劣りしてしまう。


 だから、ここからは一人で大丈夫。


 今夜も、ダンスを楽しもう。レティシアの元には早速ダンスのお誘いが舞い込んだ。

 しかし、ことはそう上手く運ばない。レティシアは、舞踏会の最中に怒りで青ざめた令嬢達に会場の隅に連れ出された。いつもそばにくっついていたトレバーがいないせいだ。


「私の婚約者に手を出さないでよ!」


 いきなり、熱い紅茶をかけられる。それもにこにこと笑いながら。相手はセバス家子爵令嬢アニスだ。周りはぐるりとドレス姿の令嬢に囲まれてしまう。さながら、煌びやかなカーテンのようで、その中でレティシアが苛められているとは誰も気付かない。仲良く話をしているように見えるだろう。


 だから、年の近い同性は嫌いだ。陰険で意地悪で、とられたくないのなら、普段から、しっかり捕まえておけばいいのに。それにレティシアは誘惑なんてしていない。あちらから勝手に来るのだ。


「ちょっと、アニス様に謝りなさいよ。そして二度とヘンリー様に近づかないと誓いなさい! このあばずれ」


 髪を掴まれた。このままではお気に入りの髪飾りが壊れてしまう。お上品なふりをしてやることは下品でえげつない。あの貧民街の孤児院と変わらない。いいえ、巧妙なぶん、もっとひどい。ほんと大嫌い。


「おやおや、何の騒ぎだい?」


 そこに紳士の落ち着いた声が割り込んだ。顔を上げるとアーネスト・コーエン伯爵。ミザリーの婚約者だ。金糸の刺繍が入った黒の正装は、彼の平凡な容貌を引き立てている。スラリと背が高く、いつもより素敵に見えた。


 だが、アーネストの素敵さは容貌にあるのではなく、その性格だ。確か今日もミザリーをエスコートしてきたはずだが、いまは彼女を伴っていない。


「いえ、あのレティシア様が、紅茶をドレスにこぼしてしまったようでハンカチをお貸ししようかと」

 

 突然のアーネストの登場に狼狽え、そんな風に言葉を濁す。舞踏会の隅でこんな陰湿ないじめがあったことがばれたら、彼女たちの評判に傷がつく。


「それはたいへんだ」

 アーネストが目を眇めると、令嬢達はさっきの威勢もなくなり、愛想笑いを浮かべ、散っていった。彼はレティシアの窮状に気付き声をかけてくれたのだ。


 レティシアはほっとした。アーネストは変わらず親切だ。良く気付く人で、本当に憧れる。トレバーの見た目は好きだけれど、やはり伯爵家だし、良く気遣いが出来て、上品なアーネストの方が良かった。


「ありがとうございます。本当に助かりました。」


 相変わらずレティシアのマナーはぎこちないが精いっぱい礼を言った。

 いつもは貴族の令息に囲まれていて、令嬢達にあのような目に合わされることはないのだが、今日は少し油断していたようだ。それにいつもくっついてくるトレバーはいないし、リーンハルトはそうそうにどこかに行ってしまうし……。彼女たちはこの隙を狙っていたのだろう。


 アーネストに助けてもらえたのは嬉しいけれど、今日の為にあつらえたお気に入りのドレスが台無しだ。しょんぼりとするレティシアにアーネストが優しく微笑み、ハンカチを差し出す。

 微笑み返し、礼を言って受けとると

「アーネスト様」

 そこへミザリーのいつになく鋭い声が割り込んだ。目を向けると彼女のいつもはバラ色の頬が青ざめ、引きつっている。ミザリーから向けられる冷たい眼差しにレティシアはたじろぐ。

 ミザリーは、つかつかとレティシアに近づいてくると、アーネストから受け取ったハンカチを奪うように取り上げた。そんなミザリーの様子にどきりとする。


「まあ、レティシアなんてこと!」


 ミザリーはドレスの染みに驚き、レティシアの前に跪く。すぐさまドレスのシミをハンカチで拭いはじめた。


「お姉さまのドレスが汚れてしまいます」


 レティシアは慌てて止めた。折角のミザリーのドレスが汚れてしまう。


「大丈夫よ。紅茶の染みに比べたら、これくらい。このドレスはあなたのお気に入りでしょう?」


 そう、レティシアの大好きな空色のドレス。ミザリーはそれを知っていて、一生懸命シミを取ろうとしてくれる。きっと先の冷たい視線はレティシアに対してではないのだ。令嬢達に苛められたことを察したのだ。彼女たちは、ミザリーの友達でもあるのだから、ショックだったのかもしれない。


 レティシアは、こんなにも親切なミザリーを疑ってしまった自分を恥じた。


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