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その後の二人2

 翌朝目覚めて、レティシアが食堂に下りて行くとリーンハルトがすでに朝食の席にいた。


 彼はこの時間とっくに家を出ているはずなのに珍しい。

 というか今朝はそれぞれに忙しい家族が全員食卓に揃っていた。


「レティシア、可哀そうに誰にやられたの?」

 オデットが心配そうに眉尻を下げる。


「まったく、女性の顔面を蹴るなど許せんな」

 いつもは温和なオスカーも珍しく怒りをあらわにしていた。


「いえ、それが私もついうっかりしていて。乱暴者を止めるつもりで間に入ったのですが、いきなり蹴られちゃって。人の動きって魔獣より予測がつかないものですね」


 レティシアは何かを悟ったようにしみじみと言う。


「お前なあ」


 リーンハルトが隣の席でイライラとしている。彼は寝不足なようで、さきほどから不機嫌だ。

ちょっと怖い。


「なによ。朝から怖い顔して。けが人なんだから、もう少しいたわってよ」

 レティシアは文句を言った。


「いいんだよ。俺は昨日お前をいたわってやったから」


 そう言いながらリーンハルトは真顔でスクランブルエッグを口に運ぶ。 


「え? 昨日?」


 そういえば、夢うつつにリーンハルトに寝室まで運んでもらった覚えがある。


「うそ、やだ。夢じゃなかったの」


 レティシアは一人狼狽え赤くなる。なんだかぎゅっと抱きしめて頭を撫でてくれたような気がする。どこまで現実でどこからが妄想なのか分からない。


 義弟……ではなく、婚約者の前で酔っぱらって管をまくなど何という失態。そのうち彼から呆れられて「やっぱり婚約やめよう」と言われたらどうしようとレティシアは一人だけ別の不安に打ちひしがれていた。



 しかし、焦る彼女をよそに朝食での家族会議は進み。オスカーが、教会でろうぜきを働いた貴族ふうの若い男を特定することに決まっていた。


 

 今日もレティシアのマイペースな一日が始まる。



♢♢♢



「レティシア、職場はどう? あれ以来乱暴者は来ない?」


 驚いた。リーンハルトがレティシアの職場を訪ねて来るのは初めてだ。彼が終業前に教会の工房に入ってきたのだ。


「さあ、私はだいたいアミュレットの制作をしていて、信者に関わる時間はそう長くないから」

「犯人が分かったぞ」


 レティシアが目を丸くする。


「わざわざ探していたの?随分早く見つかったのね」

「当たり前だ。モロー商会のバカ息子だ」


「モロー商会? 最近下町ではやっている商店ね。貴族ではなかったの」

「つい最近男爵の爵位を買ったそうだ」


「まあ、それで、特定してどうするつもりなの? シュミット家として抗議するつもり?

 私は下町の教区の人達がかわいそうだから、もう教会に来てほしくはないのだけれど」


「抗議ならば、父上がもうした」


 シュミット家は親子して仕事が早い。


「じゃあ、もう安心ね」

「ところがそのドラ息子が、親のいう事をきかないんだ。街のごろつきを引き連れて小さな店を泣かせたりしている」


 レティシアはそこで嫌な予感がした。


「まさかとは思うけれど。リーンハルト、おかしな正義感発揮しないでね。一応元姉として言っておくわ」


 レティシアはリーンハルトとの結婚に備えて、籍だけ他家に移している。


「元姉ね。しかし、なんでアーネスト・コーエン卿に頼むかな。親戚筋のミュラー家に頼めばいいじゃないか。それかエレイン嬢だってぜひにと言ってくれたんだろう?」


 リーンハルトが恨みがましい目で見る。繰り返しのなかでアーネストとは一度結婚式を挙げたことがあった。彼はそれを知っていて、面白くないのだ。リーンハルトは時折やいてもしょうがないやきもちを焼く。


 家同士の事で仕方のない事だった。レティシアとてリーンハルトに申し訳ないという気持ちはある。


「しょうがないじゃない。家同士の付き合いがあるのだし、一番スムーズに進んだわけだし。それともリーンハルトは私と早く結婚したくないの?」


 レティシアがぎゅっと眉をしかめる。


「あ、いや、そういう訳では……」


 リーンハルトが赤くなって口ごもる。


「そんな事より、そのモロー男爵の不良息子をどうするつもり? まさか一人で退治しようなどと思っていないでしょうね?」


 するとリーンハルトが不敵に笑う。


「最初は一人で片付けようと思っていたのだけれど、ロベルトとジェフも参加したいというんだ。どうやら、ロベルトの馴染みの食堂もあいつらに嫌がらせを受けたらしい」


 彼らとは討伐隊の仲間で、エレインとアランの結婚披露宴以来だ。二人はいま魔法師団に所属している。


「え? ロベルト様とジェフ様がくるの? なんで、そんな話になるのよ。役人に頼めばいいのに。というか二人とも役人じゃない」


 リーンハルトの話にレティシアは頭を抱えたくなる。そう言えば、リーンハルトも半官半民だ。


「部署が違う。それに現場を押さえなければ、役人に訴え出られない者たちもいる」

 レティシアはため息を吐いた。


「あなた、まさか家督を継いだ後もそういうことやるつもり?」

「実は討伐隊に参加したメンバーで自警団を作ろうかという話がでている」

と言って笑う。


「もう! 笑っている場合じゃないでしょ? あなたこれ以上忙しくなってどうするのよ! それに危ないじゃない」


 彼はこれから先どんどんこんな方向に育っていくのかと少し不安だ。

 子供の頃姑息にもフェイントをつかって、彼を剣術で負かしたことが悔やまれる。

 絶対にあれが、きっかけだ。


 これからは不用意にけがをしないようにしようと、レティシアは自分を戒めた。じゃないとリーンハルトが仕返しに行きかねない。



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