06 レティシアの生い立ち 2
レティシアが社交を嫌うようになった発端は、茶会だ。当時十二歳だった彼女は他家の令嬢達から、寄ってたかって、マナーの悪さを指摘された。
「ねえ、ガチャガチャと食器の音を立てないでくださらない」
「え……」
まさか非難されるとは思わずレティシアは目を瞬いた。
「そうよ。さっきから食べこぼしているし、あなたを見ているとお茶がまずくなるわ」
「そんな、私……」
恥ずかしくて悔しい。
しかし、茶会にも慣れず友達もいないレティシアに、上手く躱すすべはなかった。
それをミザリーが必死で庇ってくれた。
「しょうがないのよ。この子は、わけあって市井で育った子だから。でも今は一生懸命努力しているわ、だからマナーが身につくまで、大目に見てあげて」
そんな風に彼女達に懇願し、何とか仲間に入れてくれようとした。それが余計恥ずかしくて、いたたまれなくて。レティシアはその場から、逃げ出した。
だが、そのとき、彼女はドレスの裾を踏んで見事に転んだ。以降、レティシアの心はぽっきり折れ、貴族の集まりには参加しない。
読み書きは、まだ多少不自由だが、もう何もする気が起きない。どうせレティシアに手紙を書いてくる者などいないのだから。空いた時間は、ただただ、美しい義姉弟を羨み、妬んだ。
「どうせ私は馬鹿だし、あなた達のようにお上品ではないから。もう構わないで。偉そうに同情なんてしないでよ」
などと当たり散らした。
「そんなことないよ。まだ環境が変わったばかりでいろいろと慣れないだけだよ」
そう言ってリーンハルトは微笑んだ。あの頃は見たままの天使のようだった。
「私を可哀そうな子だと思っているのでしょ?」
そんな過去を思い出し、二度目の人生、レティシアは心を入れ替えることにした。同情しないでといいつつ本当は最後まで見捨てず構って欲しかった。そんな自分は今日でやめる。
今まで仏頂面ばかり向けていた家族に微笑む。もちろん、将来レティシアを裏切るメイドのニーナにも。やっぱり悪夢ではなく本当のことだったかなと思い始めた頃から、彼女が憎らしくて憎らしくてたまらないがそれは表に出さない。
そしてミザリー、彼女に関してはなぜあのように変わってしまったのかわからない。きっとレティシアのひどい態度が原因なのだ。
前回彼女にされたことを思い出すと怖い。
だが、今世でもミザリーは天使のように優しい。いつから彼女に嫌われだしたのだろう?
ミザリーにずっと嫉妬し続けたレティシアが悪いのだろうか……。
(いくら優しい人でも、ずっと妬まれて八つ当たりし続けられたら疲れちゃうよね。
それに、あれは前世などではなくて、予知夢と悪夢が混ざってしまったのかもしれない。
その証拠にトレバーと婚約が決まる時期も前回より、三ケ月も早かった。今までのようにひがんでいたら、あんな悲惨な未来が待っているという神様からの警告。きっとそういうことなのよ)
レティシアは一生懸命自分にそう言い聞かせた。
この家で、ただ一人、レティシアを庇ってくれるミザリーを悪者にはできなかった。




