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55 食い違う思い出

 しかし、レティシアの心配をよそに、つつがなくパーティは終了になった。新婚の二人は、これから領地にたつという。レティシアとリーンハルトは彼らを見送った。しかし、なぜかバートンと数人の研究者がいて


「今夜はうちにお泊りになるそうだ」

とリーンハルトが言う。


「私は先に休んでいいのよね?」

「もちろん、レティシアには退屈な話になるからね」


 バートンの話は難しい。きっと父とリーンハルトを相手に学問の話でもするのだろう。そのような話で盛り上がる彼らが不思議だ。


 パーティーが終わった後は、何となく寂しい。屋敷の片づけがあらかた終わると、レティシアはひっそりと屋敷の裏庭に出た。


 エレインは幸せそうだった。今世で大切な友人が出来て、少しでも人の役に立てたと思うと嬉しい。


 そうしている間にもレティシアの死は刻々と近づいている。多分、アミュレットが割れたのは偶然ではない。おそらく、もうすぐ死ぬだろう。


 ずっと死なないために必死だった。しかし、それがリーンハルトが討伐隊に入ると聞いた途端どうでもよくなってしまう。


 もちろん今でも、それなりに文献をあたりアミュレットを作っているが、どこかでもういいと思う自分がいる。リーンハルトが無事で両親や友人がしあわせならば、自分一人、さくっと消えてもいい気がしていた。


 何度も繰り返したことで充分生きたし、大切な人を失うのはもう嫌だ。


 ただ今日だけは死にたくないと思う。エレインとアランにとってよき日であって欲しいから。


 裏庭にある打ち捨てられた古い池まで来た。今は屋敷正面にもっと立派なものがあり、ここに来る者はいないだろう。レティシアはわざと人目につかない場所にやって来た。


 ここならば、ついうっかり今日死んでしまっても見つからないですむかもしれない。結局なぜ自分が死ぬのか訳が分からなかった。こんな平和な屋敷のなかで、ミザリーがどろどろとした黒魔術を行っているとも思えない。



 屋敷にはまだポツリポツリと明かりがついている。空には星が瞬き、水面に月が映る。水を含んだ土の匂い。夜の香りが心地よい。


 ぼうっと池の水面を眺めているといきなりぱしゃりと水が吹きあがった。


「きゃあ!」


 レティシアはびっくりして、転びそうになる。しかし、後ろからがっしりと支えられた。


「ごめん、そこまで驚くと思わなかった」

 笑いを含んだ声。

「え? リーンハルト! ひどい!」

 彼がくすくすと笑っている。

「レティシア、怖がりなんだね」

「違うわ。びっくりしただけよ。あなた意外と子供っぽいのね」

 レティシアが真っ赤になり、文句を言う。本音を言うと少し怖かった。


「子供の頃は噴水だといって、喜んでくれたじゃないか」

「え? 子供の頃?」

 覚えがない。


「そうだよ。ここに来たばかりの頃。覚えてないのか?」

「あなた、そんなに前から魔法が使えたの? 私じゃなくてお姉様じゃないの?」

「まさか。姉上にこんな悪戯しかけるわけないじゃない。それにこんな子供騙しで喜ぶとは思えない」


「まあ、ひどい」

「なんだよ。あの頃は何度もやってくれってせがんでいたのに」

といってリーンハルトが笑う。パーティの余韻か今夜の彼は楽しそうだ。


「それ本当に私?」

 レティシアが疑り深い目で見る。彼とそんな風に遊んだ覚えがない。


「当たり前だろ。性格も顔も反応も全然違うのに間違えるわけないじゃないか」

 リーンハルトが呆れたように言う。そこでレティシアはいいことを思いつく。


「ねえ。リーンハルト、噴水みたいにいっぱい水柱を立てることができる?」

 すると彼が悪戯っぽく笑う。

「いいよ」

 すぐに水は池から噴き出した。

「リーンハルト、水あげすぎ。服にかかっちゃう」

「注文が多いなあ」


 そう言いながらも調節してくれる。レティシアはそこに光魔法を放つ。

「ほら、綺麗でしょ? 水の中に星が瞬いてるみたい」

 レティシアは得意になる。


「レティシア、それならライティングでいいんじゃないの?」

「何よ。光魔法で水が浄化されてお得な感じがするじゃない」

 義弟といるとすごく楽しい。


「やっぱり、レティシアだよ。あの頃もはしゃいでた。水柱を何本も立てろと同じことを言った。おかげで俺の技術が磨かれた。ここで一緒に遊んだこと、本当に覚えてないのか?」

 リーンハルトがレティシアの顔を覗き込む。水音が耳に心地よい。

「うん」


 全く覚えがなかった。そもそもあの頃のリーンハルトは同じ家に住んでいても遠い存在で、一緒に遊んだ覚えはない。


「レティシアは家に来たばかりの頃のこと全然覚えていないの?」


 何をいいだすのだろう。やけにしつこい。でも彼の方が記憶力がいいことは確かで。


「ええ、あの頃はリーンハルトがとても親切で、天使のようにかわいかったのは憶えているわ」

「天使? 何だよ、それ」


 義弟が不満そうな顔をする。


「後はリーンハルトと口をきなくなっちゃったからなあ」

「なんで。そうなったの?」


 十三歳以前の話だ。そういえばループの件はリーンハルトのなかでどう処理されているのだろう。


「それは、だって、私あの頃文字も読めなかったし、それなのにあなた達姉弟はなんでもできて、嫉妬しちゃったのよね」

「ある日突然?」

「え、何が?」


 レティシアは瞳を瞬いて、背の高いリーンハルトを見上げる。


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