05 レティシアの生い立ち 1
レティシアの実母スーザンは、下町の酒場で女給をしていた。とても優しくて、美しい母だったのを覚えている。貧しい生活だったけれど、それなりに親子二人で幸せな生活を送っていた。どんなに帰りが遅くても
「私の可愛いレティシア」
そう言って抱きしめてもらうと寂しさなど吹き飛んだ。
しかし、彼女が八歳の時にスーザンは質の悪い流感にかかり、あっという間に亡くなった。当然、財産は何もなくて、レティシアには細い銀の指輪が一つだけ残される。
それ以降、肉親のいない彼女は貧民街の孤児院に預けられることになった。さいわい、形見の銀の指輪はあまり美しいものではなかったので、孤児院でも取り上げられることはなかった。
だが、貧民街にある孤児院はとても荒れていて、髪の色と瞳の色が珍しかったことも手伝い、レティシアは随分と苛められる。「幽霊」だの「化け物」だのと言われ、まごまごしていると騙されて食事を他の子に奪われることもあった。
すっかり根性がひねくれた十一歳のときに、親戚と名乗るシュミット伯爵オスカーがやって来た。
「君はね。私の親戚の忘れ形見なんだよ。家族になってくれるかい?」
そう言ってオスカーは微笑んだ。
彼によるとレティシアの父は貴族で、オスカーの従兄弟に当たる人物だという。それがメイドと駆け落ちし、生まれたのが、レティシア。その後、すぐに病で父は亡くなり、母が一人で育ててくれた。
そんなレティシアをシュミット伯爵が引き取り、養女にしてくれるという。夢のような話だが、レティシアは既に人を信用できない子供に育っていた。
その後レティシアは王都の大きなタウンハウスに連れて行かれた。
出会ったのが、美しく完璧なシュミット家の姉弟だった。
「こんにちは、レティシア」
「ようこそ、レティシア」
綺麗な金髪に、完璧なマナー。
(……綺麗、天使みたい。本当に彼らが家族?)
レティシアは孤児院の隣にある教会で見た宗教画を思い出す。
ちょうどこの姉弟のように美しかった。それに気づいた瞬間、とてつもない気おくれを感じた。
最初は彼らのようになりたいと頑張った。養父母もレティシアに礼儀作法を身に着けさせようと、家庭教師を雇ってくれたが、三月もすると嫌になり、努力を放棄するようになる。なぜなら、全く成果があがらなかったから。
レティシアには無理なのだ。しょせん義姉のミザリーや義弟のリーンハルトとは生まれも育ちも違う。
読み書きの出来ないレティシアが、文字を習っている間。彼らは詩を暗唱し、文学を語り、音楽を奏でる。差は歴然としていた。そのうえ、リーンハルトには魔法の才があるという。そのため特別の教育を受けていた。レティシアにも魔力はあるが、才能があるとは思えない。彼らに憐れむような目で見られるのは業腹だし、みじめだ。
そのうえ義姉ミザリーは明るく優しく皆に好かれている。家に来客があると、皆ミザリーに会いたがり、彼女を褒めそやす。義姉はいつも笑顔で、たくさんの人達に囲まれていた。
レティシアも来客があると挨拶に下りて来いと言われるが、そんな美しく完璧なミザリーと並ぶなんて真っ平だ。
挨拶が済めば、誰も声などかけてくれない。まるでいない者のように、触れてはいけない者のように扱われる。
(この家でも私は毛色の違う、幽霊……)
レティシアの僻みは加速していった。




