47 営舎での生活
最初は営舎の慣れない生活にとまどった。
一応雑役をする者はいるが、ある程度身の回りのことは自分でしなければならない。しかしレティシアには下町育ちという強みと繰り返しの記憶があった。
そのため比較的早く馴染んだ。困ったことがあればエレインと二人で力を合わせた。そしてリーンハルトやアランが力になってくれることも多々あった。
生活は厳しく娯楽はないが、光魔法師は隊について行くことはほとんどない。あくまでも後衛なので営舎で彼らの帰りを待ち適宜治療をしたり時には話し相手になった。そしてせっせとアミュレットを作る。もちろん数が多いので、量産式のものだった。
その日、リーンハルトが三週間ぶりに遠征から帰ってきた。
死者はなく、重軽傷が二名。実際討伐隊に参加してみると死亡者が出ることは稀だ。数年ごとに行われる大規模な魔獣討伐は常に慣れた人間が配置され、安全性に配慮されているという。
幸いけが人は二名とも命に別状はなく、レティシアは処置を終えるとリーンハルトの元へ急いだ。光魔法師の仕事は治癒力を高めることで、医術が発達したこの国では後は医者の仕事だ。
「リーンハルト、お帰りなさい。アミュレットの調子はどう?」
もちろんそれは支給品ではなく、レティシアが渡したものだ。
「まあいいよ。疲れが取れるのが支給品より早いかな」
この頃には彼らは普通に話していた。それこそ、レティシアが着任した当初は顔を合わせれば「帰れ」とリーンハルトが煩かったが半年が過ぎるころには諦めてくれた。いい義弟だ。
「ねえ、ちょっと貸して」
リーンハルトが胸ポケットから取り出す。
「ああ、いいよ。何なら返す。レティシアが持っていればいいだろ。戦場にいるんだし」
「ひどい! あなたにあげたのに、突き返そうっていうの?」
レティシアが顔を真っ赤にする。
「いや、そういうわけでは……」
リーンハルトが言葉を濁す。
「魔力量が減っているわ。あなたちょっと危険な目にあったでしょ?」
リーンハルトはベテランに混じって常に前線に立っているようだ。待っているレティシアは気が気でない。
「いや、大丈夫だよ。アランが助けてくれた」
リーンハルトが後ろからやって来たアランに声をかける。
「レティシア様、お変わりないですか?」
アランがレティシアに微笑みかける。
「アラン様もけがはありませんか」
「僕は大丈夫ですよ。リーンハルト様のお陰で」
と笑う。相変わらず彼らは仲がいい。戦場にあってもお互いに助け合っているようだ。
「レティシア、アラン様は私にまかせて」
エレインが来た。リーンハルトとアランはよく一緒にいる。そのせいか自然とアランはエレインと話すことが多くなってきた。
「リーンハルト、緊急案件がなければ、なか二日休みよね? このアミュレットは私が二晩預かって魔力を補充しておくわ。それから、ペンダント式にしておくね。その方が便利でしょう?」
リーンハルトが呆れたような表情をする。
「レティシア、仕事なのだから、一人の隊員に肩入れするのは良くないよ」
レティシアが彼の言葉に柳眉を吊り上げる。
「まあ、何を言っているの? あなたは弟よ。これは家族としてやっている事よ。仕事ではないの。安心して、ちゃんと時間外にやっているから」
するとリーンハルトは困ったように額に手を当てた。
「時間外なんかにやったら、疲れてしまうだろう。きちんと休めよ」
「大丈夫。祈りを捧げながら、アミュレットと眠るだけだから」
そういってレティシアが大事そうにアミュレットぎゅっと両手で握りしめる。
「……なんでそういうことを」
心なしか顔が赤い。
「どうかした?」
「いや、何でもない」
といって行ってしまった。
何か彼が嫌がることを言ってしまったのかとレティシアは少ししゅんとする。ちょっと、恩着せがましかったかも……。
「レティシア、仲直り出来てよかったね」
振り返るとエレインが微笑んでいる。
「そうかしら? 普通には口を利いてくれるようになったけれど、すぐにどこかに行ってしまうのよね。本当に今日はけがなかったのかな。かえって家族だと、けががあっても言いづらいのからしら? ねえ、今度はエレインが聞いてみてくれない」
レティシアが心配そうにリーンハルトの去って行った方向を見る。
「過保護なお姉さんね」
エレインに言われてびっくりした。
「そんなことないわよ」
レティシアは赤くなる。
「リーンハルト様は照れているだけよ」
「そうですよ。レティシア様からいただいたアミュレットをとても大切にされていますよ」
エレインとアランが慰めてくれた。




