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04 殺されないために

 顔合わせで、なごやかに両家の話が進むなかにあってレティシアだけが、だらだらと冷や汗をかく。


(彼に初めて出会って、私は、どうした?)


 あらためてトレバーを見る、茶色の髪に緑の瞳、整った目鼻立ち、そして三歳上の十八歳。レティシアは十九歳で彼と結婚し、二十歳の誕生日を目前に処刑される。


 そのとき唐突に、初対面のトレバーにどういう態度をとったのか思い出した。

 不貞腐れて口を利かなかったのだ。彼みたいな素敵な男性が自分を愛してくれるわけないと勝手にいじけて、挙句の果てに。


「あなたの婚約者が美しくて賢いお姉さまではなくて、残念ね!」

 

 などと憎まれ口をたたいた覚えがある。初対面でだ。そしてその三か月後に彼との婚約は決定した。トレバーは嫌だったのだろうが、結婚は家同士のことで、断れなかったのだろう。

(あれ? 私、恨まれて、嫌われて、当然……)


「レティシア、聞いているのか?」

 オスカーの強い口調に慌てて顔を上げる。うっかり回想に浸っていた。

「え?」


 義母オデットが無作法で申し訳ありませんと謝る声が遠くで聞こえた。

 

 前回は義父母が自分を子爵家の嫡男に押し付けたと思って、ひがんでいたが、結婚してその裕福さに驚いた。ブラウン家は家格ではシュミット家に劣るものの、家はいくつもの大きな商会と太いつながりを持っていて、財力ではシュミット家を凌駕していた。

 

 だから、それなりに発言権を持つブラウン家に義父母も気を遣っている。


「ふたりで庭をまわってきなさい」


 オスカーが言う。これは、あとはお二人でというやつだ。レティシアの決意は固まった。今度は間違えない。


 レティシアの態度に戸惑っているトレバーの緑の瞳とぶつかる。その瞬間、精一杯の笑みを浮かべた。


「どうぞ、よろしくお願いいたします」

(どうか、私を嫌わないで、恨まないで)


 レティシアはとにかく笑った。そして感じよくした。もう、誰にも嫌われたり、恨まれたりしたくない。殺されるなんて真っ平だ。

 

 結果、婚約は前回と同じように三か月後ではなく、その翌日に決まった。



 その日からレティシアは変わった。今まで茶会や夜会などわがままを言って出なかった。なぜなら、シュミット伯爵家の義姉弟は完璧だったからだ。いつでも養女の自分が、彼らと比べられるのが嫌だった。


 それにレティシアは最初の茶会で失態をおかしている。それ以来頑なに参加を拒否していた。

だが、これからのレティシアは違う。「どうせ、私は」などといってもう逃げたりしないと誓った。


 夫の愛が冷めて殺されないために。

 というか、最初から、彼に愛なんてなかったかも……。




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