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30 舞踏会

 レティシアは義父母に勧められるままに十六歳になると舞踏会に出た。ミザリーは相変わらず美しく、殿方にも令嬢にも人気だ。

 

 レティシアは今回、ミザリーの友人たちに囲まれて意地悪されることもなかった。リーンハルトと一緒にいることが増えたせいかもしれない。


 彼といると令嬢達もレティシアに意地悪を仕掛けてこない。


 今世のレティシアは殿方に媚など売らずに、大人しく壁際に陣取った。あのようなことをしても嫌われて疎まれて恨まれていいことなどなにもない。さすがに懲りた。レティシアのせいで揉めた婚約者同士もいたのだから、むしろ申し訳ない。


 あの頃は常に不安で、単純に誰かに愛されているという実感が欲しかった。自分の寂しさを埋めるため、身勝手なことをして随分と周りに迷惑をかけた。


 ぼうっと果実水のグラスを傾けているとリーンハルトが気の毒に思ったのか二、三曲一緒に踊ってくれた。彼とは初めて踊ったが、とても踊りやすい。リードが上手く、安心してついて行ける。さすが伯爵家の跡取りだ。ずっと口うるさくて生意気だと思っていたリーンハルトが今世ではいつのまにか自慢の義弟になっていた。


「姉さん、それほどダンスの練習をしている様にはみえなかったけれど随分上手だね」


 リーンハルトが目を瞠って驚いている。


「失礼ね。私が苦手なのは勉強だけよ。どうせなら、これくらい勉強もできるといいのに」


 自分の飲み込みの悪さについため息をついてしまう。


「何っているんだよ。充分がんばっているし、成績もあがっているじゃないか」


 そう言ってリーンハルトが微笑む。才能に恵まれている彼は、不思議と人の努力を認め尊ぶ。一を聞いて十を知る彼は、いくら勉強しても出来ないレティシアを馬鹿にすることはなかった。



 ダンスを申し込んでくる殿方もいないでの休憩することにして、もう一度壁際へもどる。理不尽に感じつつもとにかく目立たないことを心掛けた。ミザリーの目につかないようひたすら行動を慎んだ。



「疲れてしまいましたか?」


 会場の隅で、ぼうっとしていると、声をかけられた。顔を上げると、トレバー・ブラウンだった。記憶にある通りの茶色の髪に緑の瞳、整った面差し。彼を見た瞬間懐かしさがこみあげて来て泣きそうになる。一度は不幸な結婚して、二度目は優しい婚約者だった人。三度目はすれ違っただけ。


「申し訳ない。いきなり声をかけたりして」


 トレバーが涙ぐむレティシアの様子に慌てた。


「いえ、ごめんなさい。なんでもないの」


 レティシアは首を振る。彼とは今回も縁を結ぶことはないだろう。

 その後、トレバーに誘われ一度だけ踊る。一人でいるレティシアに気を使ってくれたのだろう。


 


 舞踏会のあった三日後、レティシアはオスカーの執務室に呼ばれた。最近は怒られるようなこともしていないので、何だろうと思い、入室する。


「レティシア、お前が職を得たいと考えているのは分かっている」

「はい」


 なぜ今更義父はそんな確認をするのだろう。


「実はブラウン子爵家から、お前に婚約の打診があった」

「え?」


 驚き、レティシアの心は揺れる。彼が、自分を選んでくれたのかと嬉しい気持ちはある。いや、結婚は家同士のものだから、それはないのかもしれないが。


 だが、トレバーとやり直したい。正直そんな気持ちもある。二回目の人生でミザリーに殺されることなく、結婚していたらどうなっていたのだろう? やはり、あのままでは上手く行かなかったかもしれない。だが、もう一度結婚したならば……。


 前回と父娘の関係性がかわったせいか、いきなりの顔合わせではなく、オスカーは事前にレティシアの意思を確認しくれている。

 信頼され、尊重されているのだと思うと嬉しい。



 考えた末、答えが出なくて義弟に相談することにした。

 学園のカフェテラスでランチをとっているリーンハルトを捕まえ、婚約の打診の件を相談する。


「で、リーンハルトは、どう思う」

「どう思うも何も、姉さんの気持ちが大事なんじゃないの?」

「あの、でも私、一度は職を持とうと決めて、それで学校に通わせてもらっているのに。学費だってかかっているし」


 レティシアが相談する間にも彼はこんがりと焼けたチキンを綺麗に切り分け、次々に口に放り込んでいく。実習で忙しくてあまり時間がないのだろう。所作は美しいが大分急いでいるようだ。それでも今の義弟は相談に乗ってくれる。


「うちのことは考えなくていいよ。父上も母上も姉さんの幸せを考えているのだから。

 それにブラウン家はたいへんな資産家でもあるし、トレバー氏の悪い噂は聞かない。俺はいい縁談だと思う。

 職については相談してみればいいんじゃないかな? 姉さんは治癒師になりたんだよね。結婚して、臨時雇いという手もある」


「父上も母上も姉さんの幸せを考えている」今世では彼のそんな言葉がストンと腹に落ちる。殺されてしまうかも知れないという恐怖心はあるけれど、家族に愛され今はとても幸せだ。


「そうね」


 結局、決めるのは自分だ。


「ただ、トレバー氏は浮いた噂もないし、良い話だと思う」


 リーンハルトは賛成のようだ。それにこの縁談をことわれば、また前回のようにミザリーと婚約者が入れ替わることもあるかしれない。それだけは絶対に避けねばならない。


 ミザリーはアーネストを愛していたのだろうか。だから、前回のレティシアは恨まれて殺されたのだろうか。それが理由?


 しかし、それだとつじつまが合わない。人生が繰り返す前、ミザリーはアーネストと結婚していたにも拘わらず、トレバーと浮気したのだから。

 レティシアは悩んだすえ、この話を受けることにした。


 それぞれの人生でミザリーに恨まれる内容は違うのだろうか? それともレティシアが気に入らないだけなのか。最初はいじけて僻んで嫉妬した。二度目は遊びまくって殿方にちやほやされ、いい気になり、殺された。今までそれなにりに人に恨まれる理由はあったと思う。だが三回目に関しては身に覚えがない。


(なぜ殺したいほど恨まれたの?)


 一度、ミザリーにじっくり聞いてみたい気もした。




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