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21 ミザリーのお茶会


 魔法師学園は五年制で、概ね十四歳から二十歳までの生徒がいる。一年生だから、十四歳などと決められているわけではなく、遅くは十七歳から入学する者もいた。

 

 入学には別に難しい試験などなく、簡単な教養の筆記と面接を受ければいい。必要なのは魔力なのだ。レティシアの場合強力な光属性の魔力を持っているという事でスカウトされる形での入学が決まった。つまりバートン氏の実験データ要員だ。そのため、月に二回は彼の実験に協力する義務がある。

 

 意気揚々と学園の門をくぐった。今までの繰り返しの人生になかった展開にレティシアの心は躍る。これで、きっとミザリーに殺されることもない。あわよくば、長生き出来るかもしれない。学園の中央にそびえたつ古く立派な時計塔。これからこの学校でレティシアの新たな時間が刻まれる。誇らしい気持ちでいっぱいだった。

 

 しかし、たった一つ懸念がある。寮に入るため荷物は持ってきているのだが、まだ部屋が決まっていない。どうなっているのだろう?


 荷物は学園に預けっぱなしだ。

 学び舎に入ると、学園の職員に広い講義室に案内された。そこにはニ百人ほどの生徒がいる。ここは貴族も平民も関係なく受け入れているので人数がとても多い。

 それにしても入学者を集めて、これから何が行われるのだろう? 不思議なことに日程については全く聞かされていない。

 これから、説明があるのだろうか。


 しかし、始まったのはテストだった。読み書きの苦手なレティシアには難しく。半分も解けなかった。入学の筆記試験と随分と違う。

 その後、家に帰された。学園は一週間後に始まるという話だ。




「レティシア、驚いたわ。読み書きが苦手なあなたが学校に通うおうと思うだなんて」


 午後の日の差す庭で、可愛らしい天使のようなミザリーが小首を傾げる。今日は自宅庭園で催されているミザリーの茶会に誘われたのだ。招待されたのはすべて彼女のお友達。逃げられなかった。あまり避けると不審がられるし、サクッと殺されるかも知れない。油断は禁物だ。


「ええ、いつまでもここのお家に甘えていてはだめだと思って」

「あらそんなことないわよ。私達は姉妹じゃない。それにここはあなたのいえなのだから遠慮はいらないわ。私に一言相談してくれたらよかったのに」


 ミザリーに相談したら、どうにかなっていたのだろうか? 本当に彼女に二度も殺されたのか疑いたくなるほど、今世でも親切だ。


「ありがとう、お姉さまに、そう言っていただけて嬉しいわ」


 するとミザリーがふふと笑う。そのとき風が吹き彼女の金髪が揺れる。

 きらきらと陽の光を反射してとても美しい光景だが、レティシアはぞくりと寒気がした。いつから、彼女に恨まれはじめるのだろう。もうそれは始まっているのだろうか。前と違い今世では、彼女となるべく関わらずに生きてきた。


「私の弟と随分仲がいいのね」

「そう見えますか?」

(私の弟?)


 見えないと思う。学園に適性検査を受けに行って以来、リーンハルトとは接触がない。彼とは相変わらず犬猿の仲だ。それに学年も違う。彼は一年早く早期入学していて、しかも飛び級している。つまり、レティシアの二級上だ。


 そして、いまミザリーは「私の弟」言った。やっぱり彼女にとってレティシアは家族ではないのだ。


「とても仲良く見えるわ」


 いきなり強い口調で言われ、びっくりした。ミザリーはリーンハルトとレティシアが仲良くするのが気に入らないのだろうか。


「リーンハルトは優秀で、私とは学年も違うから、会うこともないわ」

「そう。まあ、そんな事よりも、あなたは婚約者を探さなくてはね」

 

 ミザリーが断定口調で言う。

 

「え?」

「学園など趣味で通っている場合ではなくてよ?」


 そういば、ミザリーはもう、アーネストと婚約が決まったのだろうか? レティシアは何も聞かされていない。しかし、それをこの場で問うのははばかられた。ここには彼女のお友達の令嬢達も招待されている。二巡目で、レティシアに熱い紅茶をかけ、苛めた面々だ。

 義姉妹のやり取りを、彼女たちが興味津々で見ている。


「いえいえ、私など、貰ってくれる先はありません」

「あら、どうして私の妹じゃない。私に任せくれればいいのよ」


 なぜ、こんなにも積極的なのだろう。


「そうそう、婚約が決まったら、あなたも学園をやめるでしょう? 淑女教育に精を出さなくてはならないからね」


 ミザリーはレティシアの学園行きが気に入らないのだ。彼女は自分で家庭教師を選んで学園には通っていない。それなのに、なぜ? 気に入らないのならば、彼女も通えばいいのに。レティシアよりもずっと優秀なのだから。


「まあ、婚約も決まっていないのに、学校にかようだなんて」

「しかも、貴族学校ではなくて、庶民もいるらしいじゃない」

「あなた養女でしょ? 早く結婚して、ご両親を安心させたいと思わないの?」


 口々にミザリーのお友達が言う。ご令嬢方には相変わらず嫌われている。こんなことでこれから先友達など出来るのだろうか。不安になる。

 オスカーもオデットも学園への入学をすんなり賛成してくれたから、これほど彼女達からの風当たりが強いとは思いもしなかった。


「まあまあ、レティシアは勉強が好きで学園に通うのよ。人にはそれぞれ向き不向きがあるのよ」


 ミザリーがいつものように困ったような笑みを浮かべ庇ってくれるが、皆に白い目で見られた。


「だいたい貴族の娘の役目は、結婚してより優位な条件で家同士の縁を結ぶことにあるのではなくて?」


 ミザリーの友人のセバス家子爵令嬢が言えば、


「そうよね。それでこそ、育ててもらった家に対するご恩返しよ。余分に学費を払わせて学園に通うなんてどうかと思うわ」


と明け透けにハワード家男爵令嬢に苦言を呈された。学費のことなど考えたことがなかった。どれくらいかかるものなのだろう。この家が金持ちだと知っているが、チクリと胸が痛む。


 前のレティシアならば、我慢できずに癇癪を起していたが、ここで癇癪を起こせば、きっとミザリーの思うツボだ。やはり彼女はどういうわけか、レティシアを嫌っている。関わりを持たないように気をつけてきたのに。なんで?


 レティシアは腹立ちを、ぐっと堪えた。






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