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20 適性検査

 レティシアは今世で初めて学校と言う場所に足を踏み入れた。


 門を入った正面に、園庭が広がり、古くどっしりとした石造りの建物が見える。四階建てのそれには、ツタが絡まっていた。そのほか、敷地内には何棟も校舎や研究棟が建っている。

 

 そして何よりも象徴的なのが時計塔だ。勉強は嫌いだが、こういう落ち着いていて歴史を感じさせる雰囲気には憧れる。そして迷子になりそうなほど広い敷地だ。


 きょろきょろとして、「あれは何? これは何?」と質問攻めにするのだが、義弟が全然相手にしてくれない。それどころか他人のふりをする。しかも足が速い。レティシアは小走りでついて行く。 

 

 これは紳士としてどうなのだろう?


 そして奥にある研究棟に連れて行かれた。


「これから会うのは俺の師、バートン先生だ。とても優秀な研究者だ。くれぐれも失礼のないように」

 怖い顔で言われて、レティシアは頷いた。いまはリーンハルトの方が少し目線が高い。彼はこれからどんどん背ものびて、長身になる。


 細長く天に向かって伸びる円形の塔に入ると、らせん階段が続いていた。三階まで昇り、三つあるドアのうち一つをノックした。


 なかから返事があり、リーンハルトが真鍮のドアノブをカチャリと回す。

 レティシアは緊張してドキドキしたが、バートン先生は優しそうな熊みたいな人だった。年齢は三十歳前後だろうか? 思っていたより若い。


 リーンハルトに「私の姉です」と紹介された時は少し感動した。ちゃんと姉として紹介してくれた。それに外面が良い。今の彼は品よく微笑んでいる。そうしていると金髪碧眼の天使。

 

 きちんと挨拶をすませ、レティシアは勧められるままにバートンの前の椅子に腰を下ろす。リーンハルトはドアの前に立ち、黙って見守っていた。ここからは口を挟む気はないらしい。隣に座ればいいのにと、少し心細さを感じる。


 それから、バートンの質問にいくつか答え、水晶球に手をかざした。最初はやり方が分からなかったが、「手が温かくなるようにイメージしてごらん」と言われてやってみたら、やっと水晶球が光り始めた。


「これは!」


 バートン先生が光り輝く水晶を見て驚く。不安になって、後ろに立っているリーンハルトを振り返ると彼も目を瞠っていた。


「もういいよ。君の適性はわかったから」


 バートンにそう言われてほっとして、水晶にかざした手を下ろす。


「おめでとう、君は光の適性だ」

「え?」

「これは久しぶりに見た。珍しい」

「えーー! 闇ではないのですか!」


 同じ珍しい適性ならば、闇が良かった。


「姉上、失礼だよ」


 叫んだ瞬間、リーンハルトの厳しい声が飛び、慌てて謝罪する。


「も、申し訳ありません!」

「ふふふ、いいよ。闇属性を欲しがる者もけっこういるからね」

「そうなんですか?」


 ぎょっとした。そんなに人を呪いたい者が多いとは物騒だ。


「占いやまじないができるからね。女性はそういうの好きらしい」

「へ?」

「……レティシア」


 地を這う様な機嫌の悪いリーンハルトの声に慌てて口を閉じる。


「姉の非礼をお許しください」

「いいんだよ。構わない。素直な人のようだね。かわいらしいじゃないか。それに光属性とはすごい。闇属性よりさらに少なくて希少だ」


 そう言って鷹揚に笑う。レティシアはほっとした。しかし、ブリザードのようなリーンハルトの視線を背後から感じる。後が怖い。きっとまた叱られる。一歳下の義弟に借りなんかつくるのではなかった。



 その後授業があると言う義弟とは別れレティシアは学園を後にした。今後のこともあるで彼にはきちんと礼は言っておいた。


 早起きしたせいか、時間が余っていたので、光魔法の事を調べることにして、書庫に籠る。しかし、難しい言葉ばかりで、ちんぷんかんぷんだ。





 家庭教師が来て、授業を受け、勉強し、書庫に籠る日が三日ほど続いた後、義父に執務室に呼ばれた。


 何の用事だろう。まさか、もう婚約者のトレバーが訪ねて来るとか……。いろいろ考えながら、緊張して義父の執務室に入ると、バートンがいた。


 話というは王立魔法師学園の特別入学の件だった。正直驚いた。学校に通いたいとリーンハルトに話したけれど、まさかバートンが訪ねて来るとは思っていなかった。

 

 彼の話によると光魔法の適性者は珍しいから、ぜひ学園に来て欲しいと言う。どうやら入学できるらしい。主に、バートンの実験対象として。

 しかし、この際、理由などどうでもいい。これで家にあまりいなければミザリーとの接点も減り死亡率が低くなるかもしれないのだ。


 バートンが辞した後、オスカーにいろいろ話しを聞いた。意外なことに義父はレティシアの学園入学に賛成だ。どう話を切り出そうかと思っていたが、説得する必要はなかった。


「お前は何か特技を持って自信をつけるといい」

 

 いままでそんなふうに思ってくれていたのかと、義父の言葉を聞いてじんときた。

 

 入学案内の冊子を見せてもらうと、学園には寮があった。


「お義父様、私、寮に入りたいです」

 

 これで、更にミザリーとの接点が減る。


「え? 学園から家は近いのにかい? どうしてリーンハルト同じことを言うんだ」

 

 義父が悲しそうな顔をする。今世で初めて気が付いたが、この人はとても良い人なのだ。善意から、レティシアを引き取ってくれたのだろう。

 恩返しだなんて、リーンハルトに言ってしまった自分が恥ずかしい。だから、彼は怒ったのだ。


「家に、不足があるわけではないです。でも、ここにいると恵まれすぎていて、甘えてしまうので」

 

 いい感じのいい訳ができた。本当は死にたくないだけれど。


「わかったよ。それならば、せめて休みの日は家に帰って来ておくれ」

「はい」


 もちろん理由をつけて帰る気などないので、ちくりと良心が痛む。


 これで、やっと平穏無事に長生きできるかもしれない。

 今世では殺されないで済むかもしれない。








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