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19 協力してくれるの?

 そのまま席を立つだろう思っていた義弟が、まだ隣に座っている。何か言いたいことでもあるのだろうか。レティいアは少し警戒し、身構える。


「適性が知りたかったら、明日の朝、早く起きろ」

「え?」


 意外なことを言われ、レティシアは瞳を瞬いた。


「俺の師の元へ連れて行ってやる。そこで検査を受けるといい」

「あ、あの、リーンハルト」


 驚いた。彼が協力してくれるらしい。


「なんだ? 明日がダメならば、俺は知らない。お前のわがままは一切聞かない」


 断固として言う。いやいやながら、協力してくれるらしい。本当はレティシアが大嫌いなのだ。だが、困っている人を放って置けない。彼は、こういうところに育ちの良さが出る。


「いえ、そうではないの。ぜひお願いしたいわ。ただ、私が魔法の適性検査を受けることは皆さんには秘密にしておいて頂きたいの」


 特にミザリーには。


「何を企んでいる」


 途端に、鋭い口調で、リーンハルトが目を眇める。眼差しが冷たい。これがきっと義弟の本性だ。天使の顔に騙されて油断してはいけない。彼に殺される未来もひょっとしたら、あるかもしれないのだから。三回目なのに、前回も前々回もあまり関わらなかったから、彼の事は良く知らない。


「あの、はずかしいから」


 とりあえず理由をひねり出す。追及されないといいのだが。へそを曲げてやはり連れて行かないと言われたらどうしよう。


「父上に言わないわけにはいかない」

「ええ、それはわかっているわ」


 レティシアは頷いた。リーンハルトは納得していないようだ。ミザリーに告げ口されたらどうしよう。


「ふん、まあ、いい。明日起きなかったら、置いて行く」


 そう言いおいて去ろうとする。


「ちょっと待ってください」


 慌てて止める。質問するなら今しかない。


「なんだ。まだ用があるのか? 暇ではないんだが」

「いえ、あの、あと一つ聞いてもよろしいですか? 闇魔法ってなに?」


 一つ下の義弟についうっかり丁寧語がでる。リーンハルト、ちょっと怖い。前からこのような性格だったのか、今まで接点が少なすぎて分からない。初めて会った頃は本当にかわいかったのに。前回も前々回も気付けば怖くなっていた。


 一体いつから?






 義弟の朝は本当に早い。レティシアは危うく置いて行かれるところだった。

 いや実際に、問答無用で置いて行かれたのだが、諦めるレティシアではない。生死がかかっているのだ。


 彼女は朝食を抜き、義弟を乗せ走り去る馬車を全力疾走で追いかけた。


「待ってーー! リーンハルト! リーンハルトーーっ!」

 

 朝早くから往来にレティシアの声が響く。訪問着が地味に重い。息切れがする。下町で生活していた頃はもっと早く走れたのに。


 すると馬車が急停車した。追いついたレティシアの前でいきなりドアが開き、義弟に馬車に引きずり込まれる。意外に力が強い。そしてドアを閉めると御者に出発の合図を送った。彼の顔は真っ赤だ。


「淑女が走るな! 往来で叫ぶな! みっともないだろう」


 かなり怒っている。一歳下の義弟にこんこんと説教された。


「だって、リーンハルトが、置いて行くから……」


 抗議するも


「早く起きないお前が悪い」


と一刀両断された。

 

 彼の言う通りだ。しかし、本当に置いて行くとか鬼だろうか。いや、たぶん鬼なのだ。これからは人と思わず鬼だと思って接しようとレティシアは固く誓う。

 

 本当はレティシアもきちんと朝早く起きるつもりだったが、昨日彼から聞いた闇魔法の話が気になって眠れなかったのだ。


 闇魔法、それは魔術や呪いに適性があるという。もし、レティシアに闇属性の適性があれば、ミザリーを呪えば、すべてが解決するしもう殺されなくて済む。そう思ったら、興奮しすぎて眠れなかった。

 

 闇属性の適性者は少ないと言っていたが、万に一つでもその可能性があるかもしれない。胸がどきどきと高鳴る。これで死を回避して運命を逆転できるかもしれない。


「おい、ミザリーって、姉上がどうかしたのか? さっきから何をぶつぶつ言っている?」


 うっかり声に出ていたようだ。


「な、な、な、何でもないから!」


 慌てて取り繕うとリーンハルトに気の毒そうな目で見られた。もう彼はレティシアを怒りもしない。


 三巡目、天敵と思っていたリーンハルトから憐れまれているようだ。





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