16 別の生き方
家庭教師について、頑張った甲斐があって半年もするとレティシアのマナーは目覚ましくよくなる。自分でもその成果には驚いた。今回は気概が違うのかもしれない。それに前回の貯金分もある。
レティシアの変化に気付いたオスカーが、夕食の途中
「レティシア、良く頑張っているな。ずいぶんマナーも良くなった」
と褒めてくれる。いい気分になり、リーンハルトに目をやると彼は何も聞こえてないかのように澄まし顔で食事をしていた。何となく悔しい。しかし、彼ににらまれなくなったのは確かだ。
ふと強い視線を感じ目を上げるとミザリーだった。彼女はゆっくりと口元を綻ばせるようにレティシアに笑いかける。まだ、今の時点では彼女に恨まれていないのだろうか? 嫌われていないのだろうか?
だからといって、彼女を好きになることはない。二度も殺された。レティシアの背中を押したのが、ミザリーかそばに控えていたニーナかは分からないが。
それから、十日ほど過ぎた後、義母のオデットに一緒に刺繍をやらないかと誘われた。
「ぜひ、ご一緒させてください!」
刺繍は見えているほど優雅ではなく難しい。はじめから上手くできるものではないと、気長に構えた。
もう、表面だけ合わせてにこにことご機嫌をとるなんてことはしない。オデットともきちんと向き合おう。彼女はきっといい人だ。
だが、しかしレティシアには、それほど時間は残されていない。彼女は十四歳になる。
前々回は二十歳を目前に処刑されて、前回も二十歳前に人生を終えた。今回は何歳まで生きられるのだろう。十五歳になれば、レティシアの元にトレバーとの婚約話がくる。それまで、何も手を打たなくても良いのだろうか。このまま受け身でいていいわけがない。
気持ちは焦るが打開策は思いつかなかった。
そんなとき、最近よく話すようになった義母の話にリーンハルトが出てきた。彼はシュミット家の自慢の息子だ。いまは、王立魔法師学園に通っているという。
確か彼は前々回王宮勤めで、外交の仕事をしていたと思う。レティシアが死ぬ頃にはこの国にはいなかった。前回はどうだっただろう? やはり、あまり家にいなかった覚えがある。最後には会って喧嘩したが……。今世では、なぜ、魔法師の学校などに通っているのだろう。
「リーンハルトは将来魔法師になるのですか?」
「まだ、それは決めていないようね。ただ、彼は王宮に仕えたいのよ。魔法が使えると有利に働くの」
「え? そうだったんですか?」
初めて聞く話だ。オデットによると、王宮は職種別に試験が違い。エリートを目指す者は、まず魔法を習って、それから試験に臨むと言う。
「でも、リーンハルトはこの家を継ぐのですよね?」
別にそこまで一生懸命勉強して、王宮で職を得なくてもいいはずだ。
「あの子は祖父に似たみたいでね。勉強が好きなのよ」
「すごいですね。そんなに楽しいのでしょうか……勉強。私も学校に通いたくなってしまいました」
「え?」
オデットが驚いたように目を見開く。
「あ、いえ、あの、学校ってどんなものなのかなと思って。そのリーンハルトがそんなに熱心に通っているから、楽しいのかなと」
しどろもどろになる。勉強は嫌いだが、学校というところには興味がある。
「まあ、それなら、リーンハルトに聞いてみたら。女の子もいっぱい通っているようよ」
「え? そうなんですか」
「確か、レティシアは、魔力があったのよね」
「はい、以前判定を受けたときにいわれました」
この家に引き取られるときに判定を受けたのだ。なんでも結婚に有利に働くらしい。その理由は興味がないので聞かなかったので、よくわからない。
「ある程度の魔力を持った子供なら受け入れてくれるわ。それに適性によっては王宮や、教会で職を持つことができるのよ」
「そうなんですか?」
初めて聞くことばかり、もしレティシアが自立をしてこの家から出たら、死なずに済むのでは? 目から鱗が落ちた。そんな方法もあったのだ。いままで思い付きもしなかった。
「興味があるのならば、リーンハルトに聞いてごらんなさい」
レティシアはその考えに飛びついた。
本当はすべて、オデットに教えて欲しいけれど、彼女はそれを望んでいない。
リーンハルトと仲良くして欲しいと思っているのだ。




