11 幸せに浮かれて 2
レティシアは、ニーナに外出の準備を促した。伯爵家の令嬢が一人で買い物に行くわけにはいかないので、彼女を連れて行くしかない。
それに身の回りをしてくれる者を連れて買い物するのは楽だ。面倒くさいことは全部やってくれる。
「はい、あの、お嬢様どちらに行かれるのですか」
ニーナが戸惑ったように言う。いま忙しいのかもしれない。しかし、彼女の予定にいちいち構っていられないし、あの悪夢のお陰でどうしてもニーナが好きになれない。
「刺繍糸を買いに行くのよ。それと布を少々」
「まあ、ハンスに頼めばいいではないですか」
やはり迷惑そうだ。ハンスはこの家の執事見習いで、足りないものがあるとたいてい彼が用意してくれる。
「今回は違うの。お義母様へのプレゼントだから、自分で買いに行って、選ばなくちゃ」
ニーナを急き立てるように外出の準備をした。
しかし、馬車に乗り込み、いざ店に行ってみると、どれを選んでよいのか分からない。
刺繍などまったく興味がないからだ。とりあえず一番高価で、華やかな色合いなのものを店員に包ませた。
これを持ってオデットの元にいき、
「お義母様と、久しぶりに一緒に刺繍がしたいのです」
と言えば、すぐに機嫌を直すに決まっている。彼女は懐かれると弱いのだ。
しばらく社交は休んで家にいよう。
早々に買い物を済ませ、馬車に乗りこもうとすると、
「レティシア嬢ではないですか?」
と声をかけられた。
往来の向こう側にアーネストが立っていた。すらりとした立ち姿、帽子を取り、品よく挨拶し、優しく微笑んでいる。
偶然の出会いにレティシアの胸はときめいた。
「まあ、アーネスト様、偶然ですね。どうなさったのです?」
穏やかで気遣いの出来る彼が好きだ。それにリーンハルトやトレバーのように気位の高いところがない。少しどきどきする。
「いま、買い物をすませたところでね。君は?」
「私も、今日は刺繍の材料を買いに来たのです」
アーネストに会えたのはラッキーだ。濃茶の髪も瞳も優し気で、少し年上だが、若々しい雰囲気の彼が大好きだ。もう少し一緒にいたいと思った。
「あの、それで、私、咽が乾いたので、これからカフェに行こうかと思って……」
レティシアが上目遣いでそう言うのを聞いて、ついてきていたニーナがぎょっとしたような顔をする。
「そう、ならば、一緒に行かないか?」
アーネストなら、そう言ってくれると思った。彼は紳士だ。レティシアが、花が綻ぶような微笑を浮かべると、アーネストが照れたような笑みを浮かべる。胸が高鳴った。
「ニーナ、あなたは、先に馬車に乗って、帰っていて、私はアーネスト様に送っていただくから」
「お嬢様、それはいけません」
ニーナが慌てて止める。
「どうして? アーネスト様はお義兄様になる方よ? 一緒にお茶を飲んではいけないの?」
レティシアは心底、不思議そうに首を傾げた。家同士のつながりを考えても親しくしていた方がいいはずだ。別にミザリーから彼を奪おうというわけではない。
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