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夫がベッドから落ちた夜

作者: 永久野 和浩

 それは、あまりにも突然の出来事で、私は一瞬何が起こったのかわからなかった。


隣で寝ていたはずの夫が、どさ、という激しい音と共にベッドからずり落ちた。手元のスマートフォンで無為にSNSを眺めていた自分は、びっくりして咄嗟に手を伸ばし夫の腕を掴んだが、彼の体は半分以上ベッドから落ちていた後だった。


突然の衝撃に夫は目を白黒させていたが、私は「ああ、やっぱり」と思っていた。やはり、シングルベッドに夫婦で寝るのは、そろそろ無理があるのではないだろうか。


先日、新型コロナの給付金をあてにして布団を買い換えた。既に厚みが殆ど無かった布団から、低反発のマットレスと防ダニ、防アレルゲンのちょっと良い布団へと変えた。今まで夫がベッドから落ちたことは無かったので、慣れない布団であった事も原因であったのかも知れない。しかし、何故かベッドをシングルサイズからダブルに変えるという選択肢は無かった。


それには、まあ、他愛無い家庭の事情があるのだが、まず私たち夫婦は夫の両親と同居している。元々夫の両親の持ち家に私たち夫婦が入った形なのだが、その家は二世帯同居が考慮された家では無かった。それ故に、広い寝室は義両親が使用していて、私たち夫婦は本来子供部屋であるはずの部屋で保育園に通う子供と一緒に寝ている。六畳ほどの部屋はダブルベッドひとつか、シングルベッドが二つ入ればいいほうだ。たまたま家には元々シングルベッドがいくつかあったし、私と子どもでひとつ、夫でひとつベッドを使えばちょうどいい……と思ったのだが、いつの間にかシングルベッドをひとつ三歳児が占拠し、大人二人がもうひとつのシングルベッドに追いやられてしまっていた。


「……マットレスが、ベッドから少しずれてる」


夫がベッドに戻りながら、そんなことをぼやいていた。自分側のベッドサイドを見ると、確かに少しずれているのがわかった。


「だから、落ちたのかも」

「じゃあ直そうか」

「いいよ、明日直そう。もう、俺上がっちゃったし」

「そっか」


 今まで眠っていた夫は、あまり動きたく無いのかも知れない。とりあえず、明日マットレスを直しておくことを忘れないようにしなくては。


「でも、前も落ちかけてたよね」

「いやぁ、俺がベッドから落ちる回数よりも、君が隣のベッドにズレてる回数の方が多いよ」

「えっ」

「気付くと、まーくんと一緒に寝てる」

「……まあ、私側はまーくんのベットとくっついてるからね。確かにそうかも」


 そんな他愛もないことを話しながら、お互い落ちないように布団の中央側に寄って布団をかけ直した。


 まあ、そうなると当たり前だが、二人寄り添う形になるわけで。


 目の前に夫の顔がある。自然と夫の手が私の腰に回って、どちらからともなく唇が重なった。今は私の方からは確認できないが、息子はぐっすり寝ていたし、あまり夜中に起きるような子ではない。私は夫の唇を貪りながら、両腕を夫の首に回した。


 結局、子どもにベッドを占拠されたなどというのは言い訳かもしれない。少なくとも私は、内心でシングルベッドのままでいいかな、と思っている。こんなふうに夫婦の営みに流れやすいし、夫の温もりを近くで感じられる。それに、一人でアパート暮らしをしていた頃は睡眠剤を処方してもらうほど眠れなかったのだが、夫と二人で寝るようになってから全くその心配がなくなった。


 夫には悪いが、子どものためと偽ってもう少しシングルベッドのままでいよう。……あまりに夫がベッドから落ちるようなら、再検討の余地はあるけれども。

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