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天災 冷酷無残  作者: 蒼蕣
27/28

人として

「ああ、暇だな〜。ねえ湊なんかしよ」

「何をだ」

湊はぶっきらぼうに答えた。

「なんか二人でできるゲームとか」

「そんなのすぐ飽きるだろ」

湊は相変わらずテレビを見ながら答えた。

「むぅ、じゃあまた卓球?」

「どんだけ遊びたいんだよ。避難してるってこと自覚してるのか?」

「してるよ。いつでも逃げられる準備はしてあるし」

芽衣は畳の上を何度もごろごろと転がっている。何もやることがないと人間はここまで堕落するのかと湊は思った。

「はぁ」

湊はため息をついてようやくテレビから目をそらし、自分のスマホに触れた。

「んじゃあこれ読んで見ろ」

湊から渡されたスマホの画面には文章がずらっと並んでいた。

「何これ?」

芽衣はようやく起き上がった。

「俺が暇を持て余して書いた、まあ小説みたいなもんだ」

「へぇ、湊って相変わらず変だよね。暇だから物語書くって」

「書くことの目的は読者に自分の考えや心境をわかってもらうことだ。まあつまり自分の考えを自慢したいって感じだな。それに自分の考えに賛同もしくは共感してもらうことで、自己顕示欲が満たされる。そうすると自分はひとりじゃないって思えるはずだ」

「ふーん。つまり寂しがり屋ってことね」

「ん、んまあそんなとこか。それに読む側にとっても新しい物事の捉え方や自分らしい考え方を作り上げるいい機会だと思うぞ。何よりお前にとっては新しい言葉や表現を学べるはずだ」

芽衣は湊のスマホに目を通した。

「最後まで読み終わったらお前の考えを聞かせてくれ」


“機体がひどく揺れている。これからこの旅客機はある星に不時着するのだ。

しかし、その星は我々にとってまだ未知の世界であり、その星の住民が我々を助けてくれるかどうかはわからない。

それ以前に無事にあの星にたどり着けるかどうかが心配である。もし、地盤が固くなかったら、この旅客機を溶かすような化学物質が大気中に存在していたら、我々の体を蝕む害虫があの星に存在していたら。

私の不安は募るばかりだ。今はただ、妻と息子の怯える姿だけが目に映る。

機内アナウンスが私の耳に響いた。どうやら、無事に星の大気圏に入れたみたいだ。

見たところ、どこも溶かされている様子はない。その事実だけで一安心だ。

窓の外を見ると、灰色と黄土色の台地が見えた。どちらも地盤がしっかりしているようだ。

やや、大地の色が変わった。一面真っ青になった。しかもグニャグニャと地盤の形が瞬きをするたびに変わっている。こんな不安定な所に無事に着地できるのだろうか。ひっくり返ったりしないだろうか。”


「わぁ何この“やや”って! フフッ」

「あんまり笑わないでくれ。恥ずかしいだろ。俺だって未熟だってわかってるよ」

「あ、ごめん」

芽衣は再び静かに読み始めた。


“また機内アナウンスが流れた。どうやら本当にあの青の大地に不時着するようだ。もう機長の操縦技術の高さを望む他ない。

私はふと隣を見た。妻に抱きつく息子は泣きべそをかき、息子を強く抱きしめる妻は震えながら目を瞑っていた。私も、目を瞑り神に祈った。

大きな振動がした。と、同時に何かが私の足元をかすめた。見ると、窓の外で見たグニャグニャと形を変える物体が、私の足に引っ付いていた。

死を感じるほど冷たかった。私の体温が徐々に奪われていった。それは私だけではないようだった。

息子がついに泣き出した。それと同時に他の乗客もパニックに陥った。私はただひたすらこの青い物体から逃れる術を探していた。

窓の外をみると、青い物体があたり一面を埋めていた。どうやら、この物体に吸い込まれているようだった。

青い物体がどんどん私に迫ってくる。量も増えている。私は生きる希望を失いかけた。

しかし、隣にいる妻と息子のことを考えると、自然と体が動いた。ここはもう陸地である。ならば、外に出ることができる。私は、そばにある窓を叩いた。しかし私の力ではビクともしない。

青い物体が息子の首あたりまで侵食している。彼のみならず、私の死が近づいているのは明らかだった。

突然大きな音がした。見ると、動く物体が私の同志の腕を引っ張っている。さらっているのかと思ったが、連れられた同志のどれもが安堵の表情を浮かべていた。

この星の先住民であることは察しがついた。それに彼らが異邦人である我らに手を差し伸べるほど優しいこともわかった。私は思わず、笑みがこぼれた。これで助かる。

同志が次々と助け出され、ついに我々の番となった。息子を抱きかかえた妻の腕を先住民がひっぱり、飛行機から出した。妻と子供は無事のようだ。私も手を伸ばした。しかし、彼らは私の手を取ろうとはしなかった。見えないのだろうか。いや、明らかに拒絶している。

よくよく見ると、彼らは女、子供にしか手を差し伸べていなかった。男は自分で這い上がってこいという意味であろうか。しかし、外に出ようとすると、中に押し込まれた。

なんだ、こいつらは。この地球という星はこんなにも性別を偏見しているのか。彼らは我々に一度助かると希望を持たせ、すぐに絶望へと変える。こんな奴らを私たちと同じ生物だと言っていいのだろうか。こいつらは化けの皮をかぶった悪魔だ。同じ生物なら皆平等に扱うべきではないのか!

我々も生きているのだ。生きる権利は皆平等にあるはずだ! 貴様らだけは絶対に許さないぞ、天使の顔を見せるふりをしながら我々男を捨て、妻や子供を平然とさらう人間どもめ!

私はそう叫びながら、顔の色一つ変えない人間どもを睨んだ。そして、我々男たちは絶望と厭悪の中、この得体の知れない青い物体に引き込まれていった…”


頭を上げた芽衣は首を傾げた。

「どうだった?」

「よくわからない。つまり主人公とか奥さんは人間じゃないってことなの?」

「そうだ。第三者の目から見る地球それと人だ。どうだ、考えさせられないか?」

「ううん…」

芽衣は悩んだ。

「俺たちにとって何気ない行動も他の人から見たら異常なのかもしれない。しかしそれは他の人が指摘してようやく気づくことだ」

「つまり何が言いたいの?」

「人間って怖いだろ」

湊はそう強く言い放った。

みなさん、こんにちは。この度このサイトで「いいね」制度が設けられました。今まではコメントや感想を書くのがめんどくさい人だったり、自分の評価で作品の総合評価を下げてしまうのではないかと心配し控えていた方がいたと思います。しかしこの「いいね」評価は総合評価に反映されませんし、おそらくいいねをクリックするだけで済みます。なのでお気軽にどうぞ。「いいね」という言葉が見れるだけでも作品提供者側の活力となり、今後も続けて行こうというモチベーションに繋がります。なのでもしよかったら、この『天災」シリーズだけでなく、過去にあげた『鍵穴の人間』や『シンギュラリティ』もよろしくお願いいたします。


今回紹介した湊の小説は、私自身が暇を持て余したときに書いたものです。私の敬愛する星新一氏のショートショートにインスパイアされて書かせていただきました。いかがだったでしょうか。

そしてこの『天災・冷酷無残』次週を持って完結といたします。

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