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天災 冷酷無残  作者: 蒼蕣
24/28

衣食住

芽衣に連れられて駆け足で部屋に着いて持って来たバッグに脱いだ服を畳んで入れていると、芽衣が自分の鞄で何かごそごそとやりながら、湊に話しかけて来た。

「先言っててすぐ行くから」

「わかった。んじゃあ俺は受付でラケットとか借りてくるから」

湊は今度はゆったりとした足取りで部屋を出ると、お風呂場や卓球場とは逆方面にある受付に向かった。

「すみません。卓球をやりたいんですけど…」

「かしこまりました。ではこちらに署名をお願いします」

湊が立てかけてあったペンを取り、今日の日付と名前そして現在時刻をそばにあった時計を見て、記入した。それを確認すると、従業員がかがみこんで、何かを取り出した。

「ラケットは二つでよろしいですか?」

湊の目の前には薄緑色をしたプラスチックのバスケットに入ったラケットとボールが二つずつ入っていた。

「はい。大丈夫です」

「おすみになりましたらこちらへお戻しください」

「分かりました。ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ」

湊はバスケットを手に取り、頭を下げると、少し早歩きで卓球場へ向かった。

「ん、まだ来てないのか」

くたびれ損な気分で卓球場前の竹でできたベンチに腰掛け、抜け殻のように頭を下げた。

「お待たせ」

しばらくしてようやく芽衣が現れた。

「遅かった…なんだ着替えてたのか」

「うん。やっぱ、卓球は浴衣ででしょ。さ、やろう」

芽衣は浴衣姿だった。

芽衣は湊にはよくわからない持論を展開した。

「でももう後五分ぐらいしかできないぞ」

「まあ、いいじゃん」

芽衣は湊の脇に置いてあったバスケットの中からラケットとボールを取り、卓球台に向かった。

湊もそれに続くようにからになったバスケットをベンチの上に残して卓球台に向かい、構えた。

「行くよ!」

芽衣からのサーブでボールが湊の方に飛んで来た。

「はいよ」

湊はボールを軽々返した。

「おっと!」

芽衣は笑顔でボールを追いかけた。

ラリーを何回か続けた後ようやくボールが湊の脇を通り抜けた。

「やった!」

芽衣は子供のように無邪気に微笑んだ。

湊がボールを拾いながら時計を確認すると、夕食の時間が迫っていた。

「芽衣、もうそろそろ時間だけど。食べ終わってからまたやるか?」

「うん。やろう」

芽衣は終始ご機嫌だった。

その様子を見ていた湊も心がすごく和らぎ、平和が戻ったように感じた。

その後の夕食、そして歯ブラシを終えてから卓球場に戻り、遊び疲れるまでひたすら打った。

結局十一時過ぎまで卓球をやり、ようやく寝床に着いた。

避難所生活の疲れがここに来てどっと来たのか二人とも部屋についてからは一言も話さずして眠りについた。


「おはよ、湊」

目覚めると芽衣が顔の前にいた。

芽衣の髪の毛が湊の頬に当たって少しくすぐったかった。

「ああ、おはよう」

「大丈夫?」

「何が? 何かしたのか?」

湊はとっさに自分の唇を手の甲で拭った。

「うふふ、だって昨日あんまり元気なさそうだったから」

「ああ。あれは多分緊張が解けて疲れてたからだと思うよ」

「そ。よかった」

「それより、なんか昨日より布団の距離近くなってないか」

芽衣は笑った。

朝の太陽光に照らされてもいないのに芽衣の笑顔がまぶしく映った。

「どっか散歩でもする?」

「大丈夫なのか?」

湊は起き上がると、閉めていたカーテンを開けた。

外は雪が降っているというような景色だった。

周りは自然に囲まれて、木々や地面、すぐそばを流れる川までもが白く、幻想的な絶景に見えたが、それは冷たくなかった。

「こんなに火山灰が降り積もってるんだ。傘さしたとしてもなんか怖くないか」

「そう、だね」

「まあ、もう七時だしとりあえず着替えるか」

湊は時計を確認した後、芽衣にそう言った。

その瞬間湊はしまったと思った。

「着替えるとこ、見たい?」

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