選択の時(3)
「えーご覧の通り、我々の地域はまだ緊急避難地域に入っていませんので、引き続きここでの滞在となります。随時政府が最新の避難地域を発表するので、それに従ってみなさん合同で避難いたします。まだ正式の発表ではありませんが、我々の市は長野県の上田市に避難する予定です」
「すみません」
一人の住民が手を挙げた。
「はい。どうぞ」
「さっきのテレビでも言っていたように避難地域とは具体的に海面している地域ですよね。日本は島国だから結構数があると思うんですけど、いずれは海に面している全ての地域が日本の内陸部に避難するんですか?」
「はっきり申し上げますと、無理です。もともとその地域に住む人などもいますので、滞在する場所の確保が追いつけません。ですので、海に面している全ての地域が避難するということはないと思います。海に面した地域でなおかつ地震が多発している地域を重点的に避難させます。まだ正式の発表ではないので鵜呑みにはしないでいただきたいのですが、今のところの避難地域を県別に申し上げますと、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県、神奈川県、東京都、静岡県、愛知県、三重県、そして富士山の火口近くである山梨県の以上12県が避難対象地域と言われています。日本海に面している県では地震が起こりづらいので避難対象にはなりません。なおかつ山梨県と静岡県以外の13県は海に面している市町村のみとなっていますので、十分な滞在場所を確保できると思います」
湊はその話を聞いて理解はしたが、まだ納得はできなかった。
「多分日本中が混乱すると思う」
「どういうこと?」
「政府は緊急事態宣言を出して避難させる地域をどんどん発表してる。その対象は主に海に面している地域と富士山噴火の影響を強く受けている地域だ。テレビで発表されている対象だけ見ると、新潟とかも入るのに、実際は太平洋に面している県だけだ。てことになると、どんどん周りが避難してるのにまだ避難していいって言われていない日本海に面している県では不安が募って暴動みたいのが起こるかもしれない。それに続くように自分たちも地震の被害が出てるのに避難させてくないと迫ってくるかもしれない。そうなると、自主的に全員が内陸部に移動してくる。そうなれば…」
ようやく芽衣も察したのか目を見開いた。
「人が一箇所に…」
「そう、人がたくさんいればいるだけ、事故が起こったり十分な食料が確保できなくなるかもしれない」
「そういうわけだから政府は自分たちでの移動を規制してるんだね」
「うん」
「じゃあ伝えればいいじゃん。避難する対象は太平洋に面している地域だけだって」
「いや、伝えたら伝えたでそれは差別だって反発を食らう。現に日本海側の地域の方が地震の数が少ないってだけで全く無くて安全であるっていう根拠はどこにもない」
「でもちゃんとその場所は避難しなくても安心だってことを伝えればきっと…」
どんどんと芽衣が前のめりになって湊にせがんだ。
「どうだろう。全員が全員納得するとは思えない。お前だってあの火事の中で待機しててください。他の場所の方がもっとひどいんでって言われたら素直に従うか?」
「ん…」
芽衣は答えることができなかった。
「そうだろうな。命の危機に関わることとなると、人は自分や自分の周りにいる人のことしか考えられなくなるから…」
「じゃあ湊もそうなの?」
そう言った芽衣の目は何かを訴えかけるようにじっと湊を眺めていた。
「さあな、どうだろ。俺一人の命で大勢の命を救えるんだったら、喜んで犠牲になるかもな」=このまま『天災・冷酷無残』を読み進めてください。
「ああ。俺だってもしもの時は俺自身やお前のことを一番に考える。他の誰かが犠牲になるかもしれない状況でもね…」==『天災・志操堅固』の第21部分から読み始めてください。
というわけで、新年一発目から読者の皆さんに今後の展開を選んでもらいます。本文でも述べましたが、「どんな状況でも論理を優先し、大勢の人が自分の命一つで助かるのなら自分は犠牲になる」を選ぶ方は引き続きこの『天災・冷酷無残』を読み進めてください。「最終的には芽衣と自分の命を優先する」を選ぶ方は『天災・志操堅固』の第21部分から読み進めてください。『天災・志操堅固』の第21部分までは『天災・冷酷無残』と同じです。皆さんの決断がよかったのか、よくなかったのかそれは最後の最後までわかりませんので、それまで楽しんでください。
*この物語はフィクションですので、どちらが正しい選択なのかというのを説いてるのでありません。今回の選択で避難するを選んだとしても実際同じようなことが起きた場合は、その時の状況に応じて臨機応変に対応しなければいけませんので、決して鵜呑みにしないでください。あくまでフィクションとして今後もお付き合いください。