情報の真偽
二時間ほどして、さっきの警察官が再び拡声器を持って、テントの中央に現れた。
避難した人の中には緊張が解けて、寝入ってしまう人や、他の人と話し込んでる人もいた。湊と芽衣も最初こそ口数が少なかったが、提供された温かいお茶が身に沁みたのか、噤んでいた口がいつの間にか開き、いつもと同じような会話を楽しんでいた。その全員が中央の警察官に注目した。
「え〜みなさん大変長らくお待たせしました。準備が整いましたので避難所へご案内します。どうぞこちらへ」
そういうと、左手がテントの先にあったマイクロバス二台と大型バス一台を指した。
バスを確認すると、次々とマンションの住民が立ち上がった。
「ここからはバスに乗って学校へ向かいます。あ、席を立った際にはお忘れ物がないか確認してください。ここには戻ってきません。それとテントの出入り口に傘をご用意いたしましたので、お使いください。火山灰による健康被害なども出ていますので」
「はい。皆様、お疲れ様でした。学校に到着しました。お忘れ物のないようお気をつけください」
まるでバスガイドのような言い方であるが、着いた先は何の変哲も無いただの中学校だった。
バスは三台あったが、全て行き先は一緒だった。湊たちはバスに近いところに座っていたので、どのバスも満員ではなかったので、なんとなく大型バスに乗っていた。
「さ、どうぞこちらです」
案内された先は体育館だった。
木目の床に赤や緑などのラインが引いてある。左右に二つずつ、そしてこの正面入り口の合計五つの扉がある。そしてその正面奥には大きな段幕で遮られたステージがある典型的な体育館であった。
しかしその他の空間には体育館らしからぬものが置かれていた。ダンボールで作ったベッドが同じ間隔分開けられて置かれており、その一つ一つには毛布と枕が置かれていた。他には扇風機数台と大きなテレビがステージの上に置かれていた。そしてそのステージ近くにいくつものテーブルが横並びになっており、その上にポッドと電気ケトルが二つずつ、そしてその他はダンボールで埋め尽くされていた。
「好きなところをお選びください」
「あのーすみません」
住民の一人が話しかけた。
「はい、なんでしょう?」
「私たちいつまでここにいればいいんですか?」
「はい。もうじき政府が正式に避難勧告を出すので、それまでの間はこちらに」
「避難ってどこにですか?」
「それはまだ未定です」
「それっていつわかりますの?」
「えー今週中にはわかると思います。ですが安心してください。みなさんは住居がないので優先されると思いますよ」
「じゃあ、家にはもう帰れないの?」
「え、ええおそらくもう…」
「ちゃんと弁償してくれるんでしょうね?」
「は、はあ。その点はちゃんと災害保険に入って入れば下りると思いますので」
数人によって次々と質問責めに遭う警察官を尻目に多くの人が自分のベッドを確保するため、体育館の中に入った。
「ここにしようか」
湊と芽衣は正面入り口から見て左側の二つある扉のうちの奥の方に近いベッドを確保した。
二人が辺りを見渡すと、警察官は未だ何人かの住民に囲まれていた。
またテレビの方に振り向くと、職員らしき人たちが数人ダンボールの中をテーブルの上に並べていた。
ーこちら品川駅の東海道新幹線ホームですー
突然テレビがついた。
ーご覧のように多くの人でホームが溢れかえっています。どうやら多くの人が都心から離れるようです。政府はこれから危険地域から順に避難誘導を行っていくとしていますが、多くの人がすでに避難を始めています。そのため電車のみならず高速道路も下り方面に大渋滞が起こっています。
“急いで内陸部に移動しようと思って”
“都会は危ないって聞いたんで急いで避難しようと”
“これから飛行機で北海道に”
“政府が避難誘導するっていうけど、私たちの地域は結構後回しになるっていうから先に移動しようと思ってね”
“やっぱり政府は税金多く払ってるやつから避難させてるんじゃないのか?”
“SNSで沖縄は安全だって聞いて”
様々な意見が飛び交い、人々はどうすればいいか困惑しています。以上品川駅からでしたー
ーはい。ありがとうございました。これからも随時最新の情報をお伝えしてまいりますー
このとき初めて自分たちに危険が迫っていることを湊と芽衣は痛感した。