火山灰
「すげえな」
「まるで雪景色だね」
二人の視線の先には辺り一面灰色の世界が広がっていた。
動かないもの全てに火山灰が降り積もり、その上を二人はゆっくりと歩いていた。
「人はあんまり出歩いてないけど、車はやっぱり…」
「ちょっと混んでるね。どうする?」
「ううん…まだ動かなくていいんじゃないか? 要請が出たらきっとここに避難してくださいっていう避難誘導もあるだろうし。だって今動いたら泊まる場所とか全部自分で確保しなくちゃならないし、その分のお金もかかるだろ」
「そうだね。じゃあ、帰ろっか」
「ちょっと待って。コンビニ寄って食料買っておこう」
「え、でも…」
湊は芽衣の方を見た。
湊は何かを察し、自分の着ていたパーカを脱いで、芽衣の肩にかけた。
そしてフードを芽衣の頭にかぶせた。
「確かに、火山灰が髪の毛につくと気持ち悪いし、なんか脱色しそうだよな」
「それに私たち、傘もささないで飛び出して来ちゃったし」
「確かに。あんまり吸い込みすぎると毒かもな。口を押さえて帰るか」
芽衣は持っていたハンカチを湊に渡そうとした。
「いいよ。お前が使え」
湊は左手で頭を、右手で自分の口を覆った。
二人は早歩きで自宅へ戻った。
「火山灰を中に入れないほうがいいよな。ちょっと離れてて」
湊は玄関先で洋服をパタパタと叩いた。
すると、湊の周りを灰色の粉が舞った。
「失敗したな。芽衣もさっさと洋服脱いで洗濯機入れといて」
「うん」
湊は素早くバスルームに入り、長袖とズボンを脱ぎ、洗濯機の中に放り込んだ。そしてパンツとTシャツ一枚のまま、隣の洗面台で手をよく洗い、ついでに顔も洗った。
「うがいもしなきゃダメだよ」
湊は洗濯機に脱いだ服を入れている芽衣を見た。
「うわぁ、バカ。俺が出てからにしろよな」
芽衣も湊のパーカーとワンピースを脱いでいて、下着姿だった。
「何、恥ずかしがってんの? 今朝、私のパンツとブラ干してたじゃん」
「いや…そうじゃなくて」
「昨日の夜、お風呂はいった後で私はバスタオル一枚でリビングに行ったけど、湊無反応だったじゃん」
「あれは…疲れててそこまで意識してなかったからで…ってとにかく出ろ!」
「いいじゃん、別に。これから一緒に住むんだし。女の子の下着姿ぐらい。これから何度も見るんだから」
恥ずかしがって目をそらす湊を尻目に、芽衣は湊の隣で手を洗い始めた。
湊はゆっくりと芽衣の方を振り向いた。
「何ジロジロ見てんの? そんなに興奮する?」
「い、いや別に…」
「じゃあ、今日こそお風呂一緒に入ろうね。それとも今から入る? 灰、頭とかについてるし」
湊は頷いた。
「これも経験…だよな」
湊は思わず生唾を飲んだ。