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友人

「よっす。章」


 学校について早々一人の男が僕に声をかけてきた。


「君は……ええと……誰かな?」

「おいおい。いくら何でも親友の名前を忘れるのは酷くないか?」


 この男が僕の親友……その言葉果たして本当なのだろうか。見た目や雰囲気は僕とは真反対のタイプだし、目の前の男はとても女遊びが激しそうな見た目をしている。髪だって染めているようだし、服装も気崩されていて、だらしがない。


「……章は記憶喪失。だから貴方の事を忘れていても仕方がない」


 葵はどうやら目の前の男が嫌いらしく、侮蔑が籠ったような目でそう説明する。


「え? 葵ちゃん。それマジなの?」

「……マジ。それと下の名前で呼ばないで」

「あ、相変わらず俺には手厳しいことで……」

「……」


 葵はこれ以上会話したくないのか返事すらしない。葵がここまで嫌うということは、目の前の人物は余程あれな人物なのだろう。


「ま、そんな小さな問題はどうでもいいか」


 僕からすれば全然小さな問題ではないのだが、今はその事についてとやかく言っても仕方がないだろう。


「俺の名前は雨宮悠斗(あめみやはると)。章とは中学からの付き合いだな」


 中学からの付き合いということは、五人の次に僕の事をよく知っているという他人なわけか。つまり僕の過去の事をしっている可能性が非常に高い。情報を聞き出すならコイツを利用しない手はない。


「……章。コイツとはあまり仲良くしない方がいい」

「ん? なんで?」

「……この男は今まで多くの女の子を泣かせている屑野郎」

「酷いなぁ……いくら何でも屑は」

「……お前程の屑は早々いない」

「もしかして葵も雨宮と付き合っていた事あるの?」

「ちょ、お前それは……」

「……章。そのジョーク全く面白くない。二度と言わないで」


 葵は小さな体から発せられるとは思えないほど強烈なプレッシャーを放っている。僕の身体はその恐怖に完全に呑まれており、小刻みに震えている。


 瞳には怒りの色が強く浮かび上がり、その怒りは表情にまで現れていた。葵がここまで露骨に感情を表すことは今の今まで一度もなく、それだけ彼女にとって気にくわないことで、絶対に許せない事だったのだろう。


「ゴメン。流石に配慮が欠けていた」

「……わかってくれたのならいい」

「一時はどうなるかと思ったが……二人が仲直りしてくれたのなら何よりだ」

「……もとはと言えば貴方のせい」

「いやいや。今回の事に関しては俺何もしていないでしょう。俺はただ章に自己紹介しただけだし」

「……それが余計な事。貴方と関わると章に悪影響しか与えない」

「俺は葵ちゃんの中で癌細胞か何かなのかな?」

「……癌より質が悪い。生きているだけで全人類に迷惑しかかけない汚物。それから下の名前で呼ばないで」

「しょう~葵ちゃんが虐めるよ~」

「ええ……」


 このタイミングでこちらに話を振られても困る。それに葵の目……もしここで雨宮に助け舟を出そうものならば殺さんと言わんばかりの目をしている。


「章ちゃん‼」

「杏?」


 杏はこちらに一直線に近づいてくると僕の顔をペタペタと触る。


「うん。何もされていないみたいだね。安心したよ」

「あ、うん……」


 何かされるとは僕が葵に何かされるということを言っているのだろう。現に杏は僕の安否を確認するとすぐさま葵を引き離しにかかっている。


「いいから早く離れなさい‼ 貴方は充分章ちゃん成分を堪能したでしょう‼」

「……嫌。第一杏に指図されるいわれはない。決めるのは章」

「そんなのきかなくてもわかるわよ‼ ね? 章ちゃん?」

「え、あ、え?」

「……章。戸惑ってる。これ以上章に負担かけるのは止めて」

「葵にだけは言われたくないわよ‼ いつも章ちゃんのそばにべったりくっついて、それが章ちゃんにとってどれだけ負担をかけているのかいい加減理解なさい‼」

「……そういう杏が一番迷惑」

「私の何処が迷惑なのよ‼」

「……章の意志を無視して、自分の中のイメージで勝手に章はこうであるべきと決めつけてる」

「そんなことないわよ‼ 私は章ちゃんの事を理解しているからであって……」

「……人が100%他者の事を理解できるなんて絶対に不可能」

「そんな事無いわよ‼ そこに信頼関係さえあれば相手の事を100%理解することだってできる‼」


 二人の口論はますますエスカレートしていっている。本来ならばこの場において僕が二人を止めねばならない。でも僕は二人の会話をもっと聞いていたかった。今、二人は紛れもない本音をぶつけあっている。


 自分がどのような考えで、どのような思いでいるのか。それは僕では引き出すことのできない彼女たちの感情の一側面で、それは彼女達の誰が嘘つきなのか判断する材料としてとても貴重な判断材料に他ならない。


 こう考えると自分は冷めた人間なのかもしれない。他人が争っている様をまざまざとみて、あまつさえそれを嬉々として眺めている……そんな所業前の僕ならどう思うっていることだろうか。


「二人とも抑えて、抑えて。周りの目もあるんだしさ」

「貴方は……ええと……誰?」

「雨宮悠斗だよ‼ いい加減覚えてくれないかな?」

「あー……そんな人いたわね。確か中学時代他校の女子と五股仕掛けた屑野郎だとかなんとか……」

「……そこの部分だけ覚えられても嬉しくないだけど」

「私、()()()()()人間の名は覚える気ないから」

「そうですか……」


 杏の雨宮への言葉は、僕へいう物とは大きく違い、とても冷たい。纏う雰囲気だって氷の様に冷たく、他者を寄せ付けないといった感じだ。これが学校での杏だと思うと中々新鮮で、杏に関する知識がまた一つわかった。


「そういえば他の三人は?」

「呼びましたか?」

「うわ!? ってカナか……」

「はい。章さんの愛しのカナリア・アーノルドですわ」


 カナは本当に音もなく現れた。一体どこでスタンバイしていたというのか。


「うふふ。それは秘密ですわ」

「ナチュラルに人の心の声を読まないで……」


 カナのこういう所本当に怖い。もしかしたら僕の考えも既に彼女には、丸裸にされている可能性もある。いや、既に理解しているのだろう。知っていてこの余裕……カナはやはり五人の中で一番危険だ。


「そう警戒しないで欲しいですわ。私は別に章さんに何もしませんわ。むしろ甘美なひと時を与えようと考えておりますの」


 葵と組んでいる逆の腕に、カナは近づくと自身の胸を押し当てる。


「ちょ、カナ。離れ……」

「嫌ですわ。私。これでもショックだったんですの」


 カナは僕だけが聞こえるよう、耳元でそう囁く。


「ショック?」

「ええ。今朝一緒に登校する相手……私ではなく、葵さんを選ばれましたよね?」

「それは……その……」

「理由はどうでもいいんですの。大事なのは私が葵さんに()()()ということだけ」

「そんな事は……」

「あるんですの。私にとっては……ね」


 カナの表情は紛れもない笑顔。でも瞳の奥で激しい怒りの色が見て取れる。それは負けたという相手の葵に対する怒りか、はたまた選ばなかった僕に対する怒りなのか。あるいはその両方だろう。


「……カナ。今すぐ章から離れて」

「葵さんの指示に従う義理はないですわ」

「私から言わせてもらえば二人とも邪魔よ」


 葵、カナ、杏の三人の瞳が交錯し、三人の間には見えない火花が散っていた。


「雨宮君。後で話があるんだけど少しいいかな?」

「それは構わないけど……お前よくこの状況でそんな事言えるな」

「まあ昨日から大体こんな感じだからね。もう慣れた」

「そ、そうか……」


 五股を仕掛けた張本人だというのにこの程度の事で、動揺するとはもしかしたら先程葵の言った噂はデマなのかもしれない。


「所詮噂は噂か」

「何か言ったか?」

「何も言ってないよ。気にしないで」


 はてさて。雨宮からはどんな情報が出てくることになるか。

ブクマや評価等々よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 5股を掘り下げていくと面白そう [一言] 更新お疲れさまです!次回も期待!!
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