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Dreamers:the eleventh stage  作者: くろーばあஐ
1/1

逆刻

あけましておめでとうございます。(激遅)

今年もこのシリーズ及びわたくしを、どうぞよろしくお願いいたします。

 暖かい日差しが屋根のような木々の隙間から私たちを照らす。

 先を歩く二人の背中も木漏れ日に当たり、緩やかに揺れている。

 本当はもっと焦げるほど強く照りつけているはずだが、緑たちが澄んだ空気と涼しい風を運んでくるため、夏の暑さもさほど苦じゃない。



 ......うん...苦じゃ...ない...


「優羽香...大丈夫?」

 光が私の顔を覗き込む。

 彼女の額には汗が滲んでいる。爽やかな運動の証だ。


 一方、私も汗をかいていた。だが爽やかさは全く感じられず、ただただ苦行に死にそうな顔をしているだけだった。

 息は大きく弾み、顔は死人のように蒼白で、足は枷をつけられたように重く、意識は朦朧とし、挙句視界もぼやけている。


 まあ、つまりは...運動不足の私には、山登りは死に値するってことだ。


    ◇◆◇


「ちょっと顔洗ってくるね。待ってて」

 そう言って光は応接室を出て行った。

 後に残されたのは私と愛華とエルの三人。...何となく気まずい。


「それじゃ、私は先に帰る」

「ぅえっ!?」

 ちょ、ちょっとねえ!二人っきりにしないでよ...!私に二人での会話を強制しないでっ...!?

 と訴える私の目も気にせず、立ち上がりまっすぐ出口に向かった。

 あんの悪魔...!帰ったら、その...えっと、それっぽい目に合わせてやる...!


 強い恨みの念も棒に振って、閉じた扉の風が髪を靡かせた。

 色々言いたいことはあるが、一先ずは正面に座り直し、右斜め前に座っている愛華を見た。

 特に話すことはないが、この静かな空気に耐えきれずに口が開く。

「...もう、ほんとエルって勝手だよね...あはは...」


 ...静寂。

 数秒と経たず静かになった。

 愛華とはこの前会ったばかりだから、どんな話が好きとか知らないし、そもそもスルーされては話も何もない。

 苦しい。首を絞められるような心地。

 ...何か反応を返してくれ...こっちが持たない...


「......ごめん」

 ふと、愛華が呟く。何に対して謝っているのか理解できず、見開いた目で愛華を見てしまう。

「私、ずっと、光の、友達、だった。小さいころから、光を、見てた。でも、光は、友達との、関係で、悩んでた」

 前だけを見ながら、愛華は淡々と話し続ける。なんの話かはわかっていないけど、聞かなきゃいけないことのように思って、静かに耳を傾けていた。

「『誰が、本当の、友達か、わからない』って。『みんな、優しいのが、怖い』って。よく、怯えながら、話してた。私が、光を、守らなきゃって、思った。だから、身を守る、魔術を、教えた」

 さっきの魔術がどうこうの話か。そのことについてはあとで詳しく話してもらおう。

「...家に、友達が、来るって、聞いた時、驚いた。本当の、友達か、ちゃんと、見てなくちゃって、思った」

 眉一つ動かさず、機械のように喋る横顔は、何故か儚げに見えた。

 私のことをどう感じていたのかようやくわかる、と期待と不安を胸に黙って澄んだ瞳を見ていた。

「でも、そのあと、もっと驚いた。光が、自分の、話を、してたから。私以外の、誰かに、話したこと、なかった、のに」

 愛華はふう、と一つ息をついた。

 光の話をするときの愛華は、何よりも優しい顔をする。無表情であることに変わりないのだけど、顔つきが穏やかになる...気がする。

「...やっと、本当の、友達を...優羽香を、見つけられたんだって。嬉しかった。でも、まだ、不安だった。本当に、信用できるか。だから、自然と、睨んじゃってた、かも」

 それを聞いてようやく合点がいった。愛華は光を守るため、私たちに警戒心をあらわにしていたのだ。光が自分の話をしたからといって、信じると言い難いのもそうだろう。愛華にとっては私は完全に他人だから、私が誰かに言いふらしてしまう可能性も否定できない。

 自分の存在がその態度にさせていたことに、それに少なくとも不快感を感じていたことに申し訳なさを感じた。


「でも...今は、違う」

 桃色の髪が揺れる。白い肌が、夜空色の瞳がこちらを向く。

「優羽香は、光を、助けてくれた。エルは、私に、勇気を、くれた。きっと、二人が、会わなかったら、私は、ここに、いない」





「ありがとう」


その時、初めて彼女の口角が持ち上がった。





    ◇◆◇



Q. さっき、なんでほっぺをぷにぷにしてきたの?

A. 近所の、子供(9)に、似てた、から。触りたく、なった。

Q. ...私9歳の子と同列に見られてたの?



    ◇◆◇


 ええっと、なんの話だっけ。

 ああそうだ。なんで山登りしてるのかって話だった。

 こんな地獄に足を踏み入れることになった原因はそのあと。光が戻ってきた時。


「魔術について?愛華に聞いた方がいいんじゃない?」

「いや、そうじゃなくて、光も魔術を習得してるってこと聞いたから...」

「あ〜...そういえばそんなこと言ったね」

 完全に忘れてた、といったニュアンスの言葉はとりあえずスルーし、どこまで習得してるかとか、隠してた理由などが知りたいと言った。

「いや、隠してたっていうか...普通そう言われても信じないし、それに愛華が出来るだけ言わないでって。本当に危ない時にしか使わないでって言ったから」

「当然。利用されたら、危ない。世間では、滅んだ、ことに、なってる、から」

 なるほど、充分理解した。まあ、要するに「信用できないから言わなかった」ってことだろう。どれだけ警戒されてんだ私。そんな危ない人に見えるのか。

「まあ、本当は愛華から話してもらおうとしてたんだけど、ほとんど何も考えずつい言っちゃったんだ」

 「てへっ☆」とか言ってそうな表情で頭の後ろをかいた。そんなリアルでは許されなさそうなポーズも似合うんだから、つくづく美人には困る。私もあれが許される顔に生まれたかった。


 それはそうとして、結構細かく教えてくれたから、ざっくりまとめてみた。

 まず、光が魔術を習得できる理由。

 普通、今の人間は魔術を使えない。昔は人間もできたらしいが、すっかり衰退したという。使える種族は「猫族」「精霊」「神(とそれに近しい何か)」だけらしい。

 が、それは「普通である」ときの話。例外も存在する。

 その例外が光のように『かつて強力な魔術が使えた一族の末裔』だそうだ。

 鈴鳴家(すずなりけ)はその昔、日本では指折りの魔術一家だった。その力は本気を出せば国一つ滅ぼせるほどだったそうだ。

 全盛期ほどの力はないが、魔術のほとんど失われた現代でも不自由なく利用できる。


 まあ要するに、光の一族は特別だったわけだ。


 続いて光の魔術の詳細。

 光は様々な魔術を練習しているが、中でも回復魔術が得意らしい。

 逆に他の魔術はほとんどできない。練習はしたが、火の魔術は湯も沸かせないほどの火力だったと。

 あの勉強もスポーツもできる完璧な天才肌(と勝手に思ってた)の光も、不得意なことはあるのか。まあ、光も人間だったということか。


 ...いや元から人間だよ。何言ってるんだ私。


 人間じゃ無い子と触れ合いすぎて感覚が麻痺してる...休日が終わるまでに直して置かなければ...。


 いや、今はどうでもいいな。それより、話を戻そう。

 そのあと、愛華たちは魔術についてより詳しく教えてくれた。


 魔術は基本、魔力を消費して火を起こしたり、水を出したりする。

 魔力は魔術によって消費する量が違って、強い魔法ほど多く消費する。ちなみに、回復魔術は基本的に消費魔力が少ない。

 人それぞれにも元からの魔力量に差があり、極端に言えば「愛華は多い」「光は少ない」という感じ(愛華は光の2倍ほどあるらしい)。


 その魔力は自然に回復もするが、場所によっては根源的なものもあって、それの範囲内だと回復する速度が早いんだとか。なんだかゲームみたいな話になってきた。

 根源─────魔源(まげん)はまた地域によって様々な形をしている。東京だと東京タワーが魔源になっているらしい。ただの電波塔じゃなかったのか。



 ここで一旦まとめておこう。

・光の祖先が魔導師のため、光は今でも魔術が使える

・光は回復魔術が得意。それ以外はめっぽう弱い

・光は人間

・魔力は魔源の近くだと回復が早い

・東京タワーはただの電波塔ではない   まあこんなものだろう。



 さて、私たちが山登りをしているのは、この街の魔源に会いに行くためだった。

 魔源に「会い」に...魔源は無機物限定ではないということか。でもどんな人なんだろう。魔源に選ばれるような凄い人?いや、やっぱり無機物で、凄い英雄のお墓っていうこともあり得たり...お墓じゃなくても銅像とか?いや、山の中じゃないかな...。


 ...などと色々な憶測を巡らせていたのは、この休日に入る前までである。

 今は「そんなのどうでもいいから、この拷問を止めてください」と言いたい。

 急な勾配。不安定な足元。耳に突き刺すような蝉の音...何もかも憎い。学校で殴られてる時より辛い。

 ......いや、それはちょっと言いすぎた。


 それに、なんとかこの山を登ったとて、安心はできない。


 ここは光の家から南に行ったところにある小さな山。その名も「妖山(あやかしやま)」。

 この山の噂は、引っ越した当初から聞いている。

 なんでも登っている最中に、突然幻覚幻聴に惑わされ、いつの間にか下山しているという。

 幻も人それぞれで「巨大な獣に追いかけられた」と訴える者、「武士のような人が武器を振り回していた」と時代の違う話をする者、「急に森が複雑になって迷っていたら麓にいた」と意図的でないところで下ろされた者もいる。

 幻術を使うのは妖怪だとか言われたことでこの名がついた。

 名前がついたのは大昔だが、幻にかかるのは今もそうなんだとかなんとか。


 そんなやばそうな所に自ら足を踏み入れるのだ。オカルトが苦手な私は、体力とか無しにしても不安を感じた。

 だが、愛華は

「私たちと、一緒にいれば、大丈夫」

と言った。肯定もできないが否定もできないため、恐ろしくても頷くしかなかった。


 何も真夜中の墓場を歩くわけじゃないし、まあそうそう襲われもしない...多分。


    ◇◆◇


 過去の私へ。

 盛大なフラグ立てをありがとう。こちらは無事に回収できたようですが、如何お過ごしでしょうか。

 あああ...もうどうしてこんなことに...。

 現在、私は濃い霧の中を彷徨っている。気がついたら光も愛華もいなくて、明るかった陽の光も見えなくなっていた。

 どことなく寒気もするし、いっそこのまま下りてしまおうか。いや、そうするとここまでの苦労が水の泡になってしまうし...。


 とにかく動かないことには始まらない。

 幻術にかかってから、私は体の方向を変えていない。

 つまり、この方向に進めば、山頂の方へは行けるということだ。

 正直これ以上登りたくはないが、あの愛華のことだ。下りてしまったことに気がついたら、また登ると言わない確証はない。

 また同じ道を登るくらいなら、今ぱぱっと登ってしまった方が気が楽だ。

「...よし、行こう。こっちであっててくれ...」

 無謀な願いを呟き足を踏み込む。

 肩掛けの鞄から持参した水筒を取り出し、歩きながらぐいと一口流し込んだ───────


 ──────ところで盛大に吹き出した。


「ゲホッゴホッゴホッ......な、なにこれ...!?」

 青い芝生に思い切り吐き出して水筒を凝視する。

 見た目は私のだけど...中身は麦茶じゃない...?

 匂いが強くて塩っからい...


「し...塩水...?」


 その瞬間、どこからか波の音がした。

 それだけではなく、人の騒ぐ声に、強い潮風、磯の香り...


「...!!」

 認識して理解した途端、先ほどから背中を這っていた寒気がより強くなった。


 そこは、紛れもない夏の海。

 でもただの海じゃない。見覚えがある。





 私が父を亡くし、自分の全てを失くした場所だ。





    ◇◆◇


 天井を眺め、視界にチラチラ舞う埃の数を数えていた。

 さすがに暇を持て余しすぎか。だが他にやることもない。

 退屈には慣れていると思ったが、やっぱり何年経っても耐えられないものだ。

 この家には暇つぶしになりそうなゲームもない。あいつはスマホを持っていたが、休日は肌身離さず持っているので使うことはできない。あの中に入ってるゲームアプリをするのはなかなか楽しいのだが。


 あいつらは今、妖山に行ってるんだったか。

 休日に友達とハイキングか。あいつも随分青春するようになったな。...まあ、あいつ体力ないし、今頃ヒィヒィ言ってるだろうが。


 軋むベッドから体を起こす。机の前の窓から、緑色が顔を出しているのが見える。

 私は、光の家から帰ってきた優羽香からその話を聞いて、誘われたが断った。

 単純に面倒だったのと...あそこには多少なりとも嫌な思い出がある。


 それに、山にいる知り合いに変なことは言われたくない。


「...妖、か...」

 昔はそんな名ではなかった。あの山に住んでいるのは妖ではない。

 と言ったところで、信じてもらえるなどと微塵も思っていない。この世界の人間の...特にこの国の人間は頑固で、自分の考えが間違ってると素直に認める者が少ない。


 人ならざる生き物はなおさら信じてもらえない。

 私のような不老不死、妖怪や幽霊、猫族や龍族(りゅうぞく)や魔導師なんかもそうだ。

 いるかいないかは自分が見たことあるないで決める。

 それが本当に価値あるものだと決めるのも人に任せたりする。


 たとえ相手が神だとしても。


 そんなことを考えていると、昔の知り合いに会いたくなってきてしまった。

 あいつらが帰って...夜にでも訪問するか。


 なんとなく、この怠惰な生活に予定ができて、ほんの少し退屈が埋まったことに喜びを感じた。


    ◇◆◇


 砂浜に足跡をつけて波に消されての繰り返し。

 それを見れば見るほど、自分に中に確信が湧き上がる。


 ここは、確かに私が溺れて死にかけた海だ。

 同時に、私が()()()()()()こともわかった。


 妖怪だかがこの幻を見せているのには違いない。この砂からは、鉄板のような熱さを感じない。太陽から、焦がすような強さを感じない。

 まだ私は森の中のはずだ。二人の背中を追っているはずだ。


 ああ、でも......




 この日に戻れて喜んでいる私は、誰なのだろう。


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