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目が覚めると、そこはまっくらだった。
夜なのかと思ったけど、月のあかるさや葉っぱの音がしないので外ではないと思った。
ちゃんと目をこらして見てみたら、どうやらまわりは土らしかった。
ようやくそこが土の中の空洞らしいとわかって歩いて出口を探そうとしたとき、向こうからなにかが向かってくる気配がした。
とっさにぼくは身を隠そうとしたけど隠せるところがなくて、けっきょく固まっていたら、向こうからやって来たのは蟻の女の子だった。
ぼくが起きていると思っていなかったのか、蟻の女の子はこっちを見たとたん一瞬固まって
「ギャーーー!!!」とさけんだ。
ぼくはあわててその子に「あ、あ、あの・・・!」と話しかけようとしたけどその子がさけびつづけているので、
ぼくはパニックになってしまって女の子から逃げようと反対側の土を必死でかいてみたけど、上から土がバサバサ落ちてくるだけで、奥に掘ることはできなかった。
しばらくしてやがて気づいたら女の子はさけぶのをやめていて、ぼくはやっとすこし落ちついて土をかくのをやめた。
うしろをおそるおそるふり返ってみると女の子はとても怪しそうに、身構えるようにぼくを見ていて、ぼくはなんだかなにか言わないといけないような気がした。
「あ、あの、ここはどこかな?きみがぼくを助けてくれたの?」
と聞くと、女の子は顔をしかめて、”なんだこいつは?”と声に出していないことが顔に出てしまっていたので、
「あの、きみは蟻族だよね?ぼくは蜘蛛族なんだけど、糸が出せないから木からすべって落ちちゃったみたいなんだ。それからの記憶がないんだけど、きみが助けてくれたのかな?」
と聞き直した。
女の子はさらに”はぁ?”という顔をして、だんだん呆れるような、怒るような顔になってきた。
ぼくはあせってきて、なんて言えば伝わるかなとおもって
「あ、あの・・・ごめんね、ぼくの名前はコジー。きみの名前はなんていうの?」
と聞くと、女の子はもうガマンできないというかのように、
「なに名前なんておしえてるの!?あなたは捕まったのよ!これがどういうことかわかるでしょ!」
とはじめて口をひらいてくれたにしてはつよい口調で答えてくれた。
「え?捕まったってどういうこと?ここはどこなの?」と聞くと、
「あなたなに言ってるの?ここは食糧庫に決まってるでしょ。女王様のためのね」と言う。
食糧庫?食糧庫って捕れたごはんをとっておくためのところのことかな?そんなところにどうしてぼくがいるんだろう?
「どうしてぼくが食糧庫にいるの?捕まったってなんで?助けてくれたんじゃないの?」
と聞くとまた女の子は呆れるような顔をして、
「あなたは女王様に捧げるために捕まったのよ。それくらい蜘蛛族で勉強しなかったの?」と言った。
ぼくは兄妹やかあさんからそんな話を聞いたことがなかったし、蜘蛛族に女王様というのがいないのでどうしてぼくが捧げられるのかわからなかった。
「捧げるってどういうこと?食べられちゃうってこと?」
と聞いたとき、ちょうど女の子のうしろのほうが騒がしくなりはじめて音がちかづいてきた。
「来襲ー!!!来襲ー!!!」
そう言いながらたくさんの女の子の蟻たちが上に駆けのぼっていった。
ぼくと話していた女の子もその声を聞いてすぐにその声のほうに走って行ってしまって、そこにはぼくだけがのこった。
ぼくはその姿を呆然と見ていたのだけれど、来襲って言葉を思い出してハッとした。
「来襲」って言葉はかあさんのところにいたときにもよく聞いてきたし、敵がぼくたちを食べたり巣に持ってかえろうとして攻撃してくることだって知っていた。
だからぼくもここにいちゃいけないような気がして、急いで女の子がのぼっていったほうに向かって走って行った。