レヴィさんの剣術教室
ギルドには何でも屋みたいなところがあり、ときに魔物とは全く何の関係もない依頼が来る。難病の治療、農作物の収穫など、大抵は適したスキルを持っていれば一瞬で片付く依頼である。
「うげっ。依頼来てる」
ギルドからギルドメンバーへの連絡は専用の魔道具で行われる。普通の依頼はギルドメンバーが提示されたものの中から選ぶが、たまにこうして個人依頼も来る。ギルドからの個人依頼を断るには『信じられないくらい面倒な手続きが必要』だそうな。
「あと一か月この街にいなきゃいけない」
依頼を読み進めていくうちに明らかに不機嫌になるレヴィ。だが、さらに読み進めていくとだんだん表情が緩んでいった。
「ふーん。まあこれならいいか」
「どんな依頼だったの?」
「一般人に剣術教えろってさ。あんたもついでに鍛えてあげる」
会場である広場に集まったのは、老若男女総勢40人くらい。子供が多い印象だが、一般人か疑わしいレベルで筋骨隆々の人もいる。全員服の中にグレーの防護タイツを着ているのだが、宇宙人が人の服を着ているみたいでちょっとおかしい。
「では第三回護身剣術教室を始めまーす」
これ三回もやってんの?初耳なんだけど。
「誰か前任のアスカさんがどうやってたのか教えてください」
きわめて事務的なレヴィの声に、獣人の少女が答える。
「最初にレクチャーがあって、次に同じくらいの強さの人で二人組を作って竹刀で十分打ち合って、五分休憩。これを何回も繰り返しながら、回っている先生が気になったところを指導する、という形でした。前回までに魔力探知と立ち回りをやりました」
「思ったより簡潔な説明が聞けたよ。ありがとう。皆さん前回のペアは覚えてますか?」
「はーい!」
子供達から元気な声が聞こえる。大人も頷いている。
「では、前回の復習もかねてとりあえず打ち合ってみてください。三分くらいでいいので」
すぐに打ち合いが始まった。
「止め!思ったよりレベルが高いですね。ではこちらを向いて、竹刀に魔力を流してください」
レヴィ先生、なかなか様になってるな。
「サボらないで。あんたもやるのよ」
......それは知らなかった。
「おおっ」
「光った!」
そんな声とともに広場に様々な光が灯った。
「竹刀には特殊な加工がしてあり、適切に魔力を流すと緑になります。緑じゃない方は調節してください」
いきなり緑の人はいなかった。かくいう俺の竹刀も赤く光っている。どうすれば緑になるんだ?
「難しいよ~」
「なんかコツとかないの?」
「できる気がしない......」
あちこちから悲鳴が聞こえる。
レヴィがコツをいろいろ説明してはくれたが、結局、その日のうちに緑になる人はいなかった。