風呂
風呂で若い男女が裸で二人きり。これ大丈夫なのか?本当に大丈夫なのか?
「どうしたの?さっきからチラチラ見てるけど。ああ、そっか。確かに私の体はどこをとっても強そうには見えないかもしれないけどね。筋肉鍛える上で大事なのは量より質なの。あんまり付けすぎても関節の可動域狭めちゃうし」
何やらムキになって喋っている。もう返事はしないことにした。
「もういい機会だから私の体触ってよ。全身くまなく。そしたら私がどれだけ鍛えてるかわかるから」
いや駄目だ。このままじゃとらぶる不可避だ。
「......別に筋肉を見てたわけじゃないよ。引き締まってるのも見ればわかるし」
「じゃあ何を見てたの?」
レヴィの表情が不機嫌から怪訝になった。本気で不思議そうである。相手がこの態度だともはや何も感じないな。どこかの変態が言っていた『わざと見せるパンツなどパンチラの前には屑同然』的な言葉と同じだろうか。なんか嫌だなそれ。
「ん?ああ!ごめん、思い出した」
レヴィさん、何かを思い出されたご様子。
「人間と発情期の獣人は裸を見たり見られたりするのに抵抗や魅力を感じることがある、ってやつだろ。そういえばあんた人間だったな。忘れてた」
「忘れんなよ......でもそういうこと」
「ん~?でも見てたってことは魅力を感じるタイプなんじゃないの?見たければ見ればいいじゃん。私エルフだからまったく気にしないよ?」
「いや~......見たいというか、本能的に見てしまうというか......」
18歳男子、こんなもんである。
「本能的に、ほう。つまり、裸を見ると子を為したくなるというわけか」
端的に言い過ぎだろ。もうちょっと別の表現なかったのかよ。
「人間は寿命が短いから、当然といえば当然か。でも私あんたと子供作る気ない。ご希望に添えずすみません」
「誰が希望したんだよ」
「あんたの本能」
「違う。ってかエルフにはそういう本能皆無なのかよ」
「ゼロとは言わないけど、頭と心が先に来るのが普通だって」
理想的じゃないかエルフ社会。せっかく転生するならエルフになればよかった。っていうか伝聞?
「その口ぶりだと伝え聞いたことみたいだけど」
「うん。私、エルフの村で育ったわけじゃないから」
「ふーん」
「物心ついたときには師匠と一緒に旅してた」
「師匠?」
「ムガル。名前くらいは知ってるんじゃない?」
「えっ?ムガルって、あのムガル?」
「そう。そのムガル」
レヴィはどこか自慢げだ。お前が自慢することじゃないだろ。
英雄ムガル。世界最強の男の名である。