転生三日目
魔物がいて、それを束ねる魔王がいる。四種族(人間、獣人、エルフ、ドワーフ)は魔物から身を守るため、戦闘能力が高い者をギルドに集め、各村落に派遣している。今俺たちは、結界が破られてゴブリンの群れに襲われているところに向かっている。
三日間も一緒にいてそのくらいの話しかしなかったのだから、さぞ気まずい沈黙が流れたのだろうと思われるかもしれないが、そんなことはない。レヴィの移動速度はかなり速く、貧弱モヤシ野郎の俺にとってはマラソンだったのだから、喋る余裕は無かった。それでも、最初のうちは彼女がしきりに話しかけてきてくれたのを見ると、彼女としては俺に合わせてくれていたのだろう。これで仕事に支障が出ていたら本当に申し訳ない。
「ここがリル村です。思ったより長くかかっちゃいました。朝には着く予定だったんですが、もう昼ですね」
やっと着いた。三日間にわたるマラソンを完走した。走っているときには気づかなかったが、金属同士がぶつかっているような音が聞こえる。
「あなたは村の中にいてくださいね。あとこの荷物頼みます」
そう言ってレヴィは音のほうへ走り出した。すぐに視界から消えた。
レヴィが戻ってきたのは日が暮れてからだった。その間、暇になっちゃった訳だが、親切な村人が「お付きの方ですか?どうぞお休みください」と家を貸してくれたおかげでぐっすり眠れた。他人の家でぐっすりするのはそんなに得意ではないのだが、限界を超えて疲労が蓄積された体の前にお粗末ではない布団があったのだ。寝ないほうが無理というものである。
「ここにいたんですね。ちょっと探しちゃいましたよ」
「ごめんなさい」
「いえいえ。それより、ここでの仕事はもう終わりました」
それが早いのか遅いのかわからないので感想の言いようがない。
「なので、明日の朝にここを出ようと思います」
「わかりました。いろいろありがとうございます。レヴィ様」
「ぷふっ」
笑われた。『エルフの笑顔』については、形容の必要もないだろう。だが、俺のメンタルは絹ごし豆腐のごとしなのだ。たとえ向けられた笑顔がどんなに可愛らしかろうと、ウケを狙ったわけじゃない発言が笑われると普通に傷つく。
「やめてくださいよ。『様』だなんて。なんかこそばゆいですよ。せめて『さん』にしてください」
「それを言うならレヴィさんだって俺の事カイト『様』って呼ぶじゃないですか」
「それもそうですね。カイトサン、カイトサン......なんかしっくりこないなぁ。もういっそのこと敬語やめましょうか」
「そうですね。あっ、いや、そうしよう」
『です、ます』をつけていれば敬語だと思っているような輩にとって、この申し出はありがたかった。