レヴィ
「スゴイですね。グレーウルフはそんなに強い魔物じゃないですけど、10メートルも吹っ飛ばしたのには驚きました」
上のほうから声がした。見上げて探してみたが、声の主が見当たらない。
目線を戻すと、目の前に少女が立っていた。緑の目に金髪、耳は尖っている。これくらいメジャーなのなら俺にもわかる。エルフだ。
「私、レヴィです。あなたは?」
「カイトと言います」
苗字も言ったほうがよかっただろうか。
「カイト様。ふーむ、それにしても......」
言いながらレヴィは俺の体をじっくりと見た。照れる......もしかして俺は希少種族にでも転生しちゃったのだろうか。それともまさかの超絶イケメンになってて俺に見とれてるんだろうか。
「どうしたんですか?」
「ああ、すみません。いや、筋肉ないなと思って」
ですよねー! 前世でもアダ名モヤシとかホワイトアスパラガスだったもの。全然陽の光浴びてなかったもの。
「さっきの、一体どうやったんですか?どう見てもこの体からあの力は出ないと思うんですけど」
「いや......どうやってっていうか......そこの棒振り回しただけですけど......」
「それは見てましたけど......あっ!えっ?ひょっとしてあなた、違う世界から来ました?」
「えぇ。まぁ、そうですけど」
「なるほど。それであんなに強かったんですか。んーどうしよっかなー」
彼女はしばらく考え込んでいたが、パンと手をたたいて言った。
「ついてきてください」
すぐに俺たちは歩き出した。もちろん俺は頭上にいくつものクエスチョンマークを浮かべながら、である。
「あのー。何が何やら分からないことだらけなんですけど」
「あぁ、説明が要りますよね。でもその前に、この世界に来たのはいつですか?」
「ついさっきです。襲われる少し前」
「じゃあこの世界のことは何も知らないってことですよね」
「えぇ、全く何も」
「じゃあ、ふぁんたじぃ? とか、てんせい? とか、エルフとかドワーフとか獣人とか、魔王とかは知ってます?」
魔王のところで彼女の顔が曇った。魔王が存在するファンタジーテイストの世界ということは、古典的な魔王討伐を目指すヤツだと思っていいのだろうか。
「知ってますね。全部」
「それなら説明は要らないですよ。その辺から連想される感じでだいたい合ってます。たぶん」
「ってことは俺以外にも異世界人っているんですか?」
「けっこういますよ。最近特に多いです。異世界人の方々はユニークスキル持ちだったり、ステータスが優秀だったりすることが多いので、ギルドに紹介しなきゃいけないことになってます」
「今から向かうのはギルドってことですか?」
「いえ、とりあえずあなたは私についてきてください。ギルドに着けるのは一か月くらい先だと思います」
うーむ。いろいろとわからないことはあるが、今の段階では仕方がないだろう。とりあえず命の危険がないことがわかれば十分だ。