転生
「ハイ次」
訳も分からず俺はなんか偉そうな男の前に立たされる。閻魔様っぽいような恰好をしている気がしないでもない。
「月島海斗、18歳。死因、心不全」
えっ?俺死んだの?いつも通り通学しようとしたのに?
「生前に取り立てるほどの善行、悪行なし。幽霊化につながるほどの未練なし。趣味なし。特技なし。彼女いない歴、18年。なるほど......」
閻魔様が憐みの目で俺を見てくる。特に「彼女いない歴18年」を読み上げるときには目が潤んでさえいた。そんな目で見ないで欲しい......っつーか失礼だろ。
「こんなところか」
サラサラっと紙に何か書きながら閻魔様は言う。
「じゃ、頑張れよ」
その声とともに俺の意識は薄れだした。「ハイ次」の声が遠くに聞こえる。
目が覚めた。森の中のようだ。ひょっとしてコレって転生ってやつじゃなかろうか。ちょっと周りの木も前の世界のよりデカい気がするし。
しかも閻魔様の憐みが「彼女いない歴18年」で一層深まったことを思えば、ひょっとするとひょっとしちゃうかもしれない。ムフフフフ。カイトハーレムができるのも時間の問題だな。
などと幸せな妄想が膨らまないでもないが、実際には俺は森に一人ポツンとしているわけで、どう考えても危険だった。すぐに人に会えるとも思えないし、安全な寝床と安全な飲み水の確保を最優先すべきだ。
そういえばさっきから川のせせらぎのようなものが聞こえている。とりあえず川に向かって歩いていこう。飲み水は死活問題だし、昔から人が住むのは川の流域と決まっているから、人に会えるかもしれない。
「ガルルルル」
急に恐ろしげなうなり声が聞こえた。いつの間にやら狼みたいな獣に囲まれていた。転生してまだ一時間もたっていないのに、ゲームオーバーが目の前で口を開けている。こんな時どうすれば......そういえば前に熊に襲われた時の対処法がテレビでやってたなぁ。確か熊対策の専門家の大先生曰く
『いきなり熊が目の前にいたらもうどうしようもないです。戦うしかありません』
マジすか......でも何もせず死ぬよりマシか......
足元に転がってる『ヒノキの棒』みたいなのをとろうとかがんだ瞬間、狼(?)の中でも特にでかいやつがとびかかってきた。恐怖に目をつぶって無我夢中で『ヒノキの棒』を振り回す。ドコッ。何かが当たった感触があった。これであきらめてくれるかも?恐る恐る目を開けると、さっきのデカい奴が10メートルくらい向こうに倒れていた。ほかのやつらはしばらくフリーズしていたが、
「クゥーン」
と弱々しく一匹が鳴くのを皮切りに一目散に逃げていった。