相棒は4万7800円
「は~……」
ショーウィンドウを眺める女子小学生。誰だって、そんな物欲しさある表情するものだ。
そこにあるのは……。公園にもよくある物、多くが専用として持っている物。
大人も子供も。スマホのように変わりなく、便利な物である。
「う~、無理だよねぇ……」
欲しいけれど、手が出ないお値段。
彼女。阿部のんちゃんは、仕方なく、去っていく。
そんな光景をよく見ている男がいるのである。
◇ ◇
そんなことから3日後ぐらい。
いつもの喫茶店で話があると、珍しい呼び出しで来た女。そして、呼び出した男。
「ミムラ、のんに自転車を買ってあげろ」
そんなことを本人には内緒で把握していた男。のんちゃんの保護者のような人、広嶋健吾はもう一人の保護者的な沖ミムラに命令するのであった。のんちゃんと一緒に生活しているミムラは
「な、なんで広嶋くんがそんなことを訊くの?」
少し驚く。自分の事より詳しいから。
ついこないだ、のんちゃんが言っていた。学校の友達が自転車を持っていて、遠出するんだとか。自分だけ持っていない事が、ちょっとショックだとか。
「でも、のんちゃん。走るの速いじゃん!時速50kmぐらいで走れる子だし、異世界の山育ちの子だよ!ダッシュ移動で困らないじゃん!」
「それは知ってる。のんの友達が自転車で追いかけないと、走ってるのんに追いつけないのも知ってるし、のんが手加減してるのも知ってる」
広嶋はコーヒーを一口飲んで、のんちゃんの困ってそうな事を代わって訴える。
まるで父親のよう。
「だが、それは周りと距離を置く事にもなるし、遊びや買い物、ましてや注目を浴びれば、あいつも苦労するだろ?」
「すでに子役なり陸上競技なりのスカウト来てるんですけど、それは?」
「まー、そーいうのは俺がコッソリシバくとしてだ。自転車を買えよ」
ミムラの理想的には夫婦になりたいことだが。まるで娘を甘やかす父親みたいな言葉に、渋い顔になってしまう。
「自転車って高いじゃん」
「お前、金あるし作れるだろ。”天運”でちゃっちゃと懸賞とかやって、稼げよ」
「というか、置く場所ないし。あたしだって持っていないよ(実家にはあるけど)」
ミムラはのんちゃんと2人暮らしであるが、あんまり広くないお部屋で暮らしている。駐輪所はあるが、駐輪スペースも駐輪代もない。それなのに子供用の自転車を買えとは困ったものだ。
「場所ないの!買う以前の問題!ダメです!」
切実。
「あ~?アパートがダメでも、そこらへんの駐輪所のスペースを一つ買えばいいじゃねぇか」
「通勤や通学でもないのに買えるかーーー!高いとか安いとかじゃなく!そこまでして、自転車乗りたいようには、あたしには見えませんよ!」
もう少しで揉めそうなところに、店長が手作りケーキを差し出す。
「夫婦の揉め事かい?子供のために大変だね」
「んなわけあるか、アシズム。そうだ。お前、普段から一般人に能力授けて、俺達に処分させるんだから。たまにはお前が今回良い事をやれ。自転車を置ける程度のスペースを確保する能力なり、技術なり!」
アシズムはそんな4次元的な空間の設立に
「たまにはいいけれど、思った結果は違うような気がするよ」
「いいよ、別に。それとしょうがねぇから、俺が自転車買ってやるから。ミムラ!のんから欲しい自転車を聞いてこい」
「むーっ……あ、できれば、あたしのも買ってくれない?」
「買わん」
そんなこんなのやり取りがあって。
結局、広嶋は2人に自転車を買ってあげるのであった。
優しい。
◇ ◇
自転車。子供にとっては無料の移動手段。もっともっと遠くに行ける、乗り物だろう。
「みんな、相棒みたいな感じで乗っていて、のんちゃんは羨ましかったんです!」
買ってもらった自転車。お値段、4万7800円。軽くてギア付きの自転車を買ってもらった。
これで友達と一緒に並んで遊びに行ける。
ところで
「それと、この秘密基地みたいな空間!のんちゃん、すっごく嬉しいです!ありがとうございます、アシズムさん!自転車置き場だけじゃなくて、本、テレビ、勉強机だって置けるなんて家みたい!」
「あ、いえいえ。たまには良い事をしろって、彼がね……」
のんちゃんにとっては、自転車以上に。自分のお部屋みたいな感じで渡された、アシズムの四次元空間の方に喜んでいた。そのお値段はなんとタダ。
「ここに友達も呼んで遊べるよー!」
「………………」
「広嶋くん、怒らない怒らない……」




