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老傭兵の孫娘  作者: ないんなんばー
episode1 その暴風の名は、
3/3

(2)


タスバル王国。

大陸の真ん中ぐらいに位置し、周辺国家の真ん中ぐらいの国力を持つ、その国の真ん中ぐらいにある王城在地首都、パスカル。


平和に近付いた世界でも、延べなく平穏とは言えないのが人の常。

パスカルは常に騒がしい。

何処で何が起こっても不思議ではない程に。

だから人は人を頼る、それが歴戦の勇士ならなお好ましい。


傭兵。

それは平和の為に戦ったつわもの達。

金銭を対価に命すら捨てる博徒達。

傭兵ギルドに舞い込む依頼を捌いていく傭われの兵。

護衛をこなし、探索を熟し、採集を熟し、配達を熟し、掃除を熟し、子守を熟す。

おいちょっと後半。などとは言ってはいけない。

何故なら彼らは便利屋だから。

だって戦争がないんだから、仕方ないね。


そんな彼らだが、輝ける場所がある。

世界の新たなる脅威、魔物の討伐である。


歯痒くも戦争終結の立役者である魔物は、本当に、ある日突然現れた。

人対人の争いを、人対魔物に置き換えたのだ。


銅貨数枚のために命を賭けて魔物を倒す彼らは、守られている意識のない人にとっては、やはり便利屋なのかもしれないが。




▽▲▽▲▽



パスカル傭兵ギルド南支部は飲んだくれとろくでなしの巣窟である。

大抵の者は日銭を稼いで酒場に居座り、残りの僅かはその日死んだか、あるいはギルドの花形か、である。


両開きのスイングドアが開かれる。

厳しい鎧、身の丈ほどもある大きな剣、見上げるほどの大男。

花形中の花形、ギルドNo.1との呼び声も高い傭兵、名をフリッツと言う。


フリッツは一度ギルド内を見渡して、小さく溜息を溢す。


これが俺の憧れた、傭兵の今か。

金が入れば酒か女、装備の見直しすらなっちゃいねえ、見ろよ、あのボロ臭え鎧を。図体ばかりでかいろくでなしの便利屋どもめ。

俺は違うぞ、俺は傭兵だ。


腹の中で不満を煮え滾らせながら、フリッツはカウンターに向かう。

依頼完了の手続きと素材やらを売却するために。


「お疲れ様ですフリッツさん、何か大物はありましたか?」


カウンターの中で、受付嬢のサラサが微笑む。

サラサは珍しく、ギルドの職員にしておくには勿体無いほど真面目な女だ。


「変わったモンはなかった、いつも通りの小物祭りさ。」


「それは良いことですね。はい、こちらを報酬カウンターにお願いします。」


「おう。」


何枚かの紙を受け取り、報酬カウンターに目を向ける。

すると、いつもはつまらなさそうにしている買い取りの親父が、珍しく鼻歌まで歌っているではないか。


「フンフフーン。おっ、稼いでるじゃねえか、フリッツ。」


「ぼちぼちな、それでどうしたゴッゾ、景気が良さそうだな?」


「おうとも、良いぜ。今日はエライ素材が山のように入ったからな。」


「ほう、何処ぞの凄腕が流れて来たのか?」


こう言う時は大抵が他所様のおかげだ、辺境あたりで稼いでいた傭兵が、華を求めて王都に流れてくるのは珍しい話じゃない。


「聞いて驚け、ソイツは今日、初めて傭兵登録する新人ニュービーだ。」


となれば、お抱えでやっていた奴が暇を言い渡されたか、或いは前線で張ってた兵士だろうか?


「いやいや、若い女だ、それもとびきりの上物、女神もかくやと言った風体さ。」


「おいおいゴッゾよ、お前さんもついにイカれちまったか?

そんな女が傭兵なんぞになるわけが無いだろうよ。」


「一番の大物はキリングベア、こいつが三体、中魔核が百と少し、小魔核に関しちゃ重さで買った。」


そいつはオーガか何かじゃないのか。

フリッツはあまりの内容に声を無くした。


「お前のNo.1もいよいよ怪しくなってきたぜ?」


からかうように言うが、ゴッゾの目は興奮で燃えていた。

それだけで、いつも退屈そうに仕事をするこの男に火をつけたのだと解る。


どんな女が来たのか、気にならないと言えば嘘になる。

ただ一つ、今の所で解ったのは、そいつがとんでもないと言うことだけだ。


「傭兵登録の手続きに時間が係ると言ったら、宿を手配してから来るとよ。んー、もうそろそろ来てもおかしくはないと思うが。」


未だ興奮冷めやらぬ様子でフリッツの持ち込みを精算していくゴッゾ、今のこの男の目に、フリッツの戦果はどう写っているのだろうか?


「ほらよ、銀貨で三十。残りは手数料だ。」


「あ、おう確かに。じゃあまたな。」


少しぼうっとしていたフリッツが枚数を数えて皮袋に銀貨を入れ、立ち去ろうとした時に、背中に声がかかる。


「御免。」


振り返ると、目に入るのは美しい金色。


「先程の報酬を受け取りに来たのだが、もう大丈夫だろうか?」


型落ちの鎧を身に着け、腰に剣を吊るしたやや大柄な女。

雰囲気は、傭兵だ、それも手練の。

こいつはとんでもない、とんでもないぜ。


「おお、こんなに稼げるのか!やはりお祖父様は間違っていなかったのだな!」


そのとんでもない女が無邪気に喜ぶ様はどうだ、末恐ろしくてたまらんぜ。


「では早速登録してくるのだ、ゴッゾ殿、世話になった。」


一度もフリッツに視線を向けることなく、女はサラサに声をかけに行く。


震えるほどに、格好が良いじゃねえかっ…!


そこにはフリッツの憧れた傭兵がいた、強く、朗らかで、粗野にして高潔。

あいつは傭兵の体現だ。


「ゴッゾ、あいつの名前を聞いたか?」


緩む頬を抑えながら、フリッツはゴッゾに問う。

ゴッゾもニヤリと笑い、囁く様に答えた。


「イセリナだとよ、久しぶりに本物が見れたぜ。」





この日、傭兵ギルドに一つの名前が加わった。

フリッツは思う、まだ傭兵の時代は終わってなんかいなかったと。


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