表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
老傭兵の孫娘  作者: ないんなんばー
episode1 その暴風の名は、
1/3

プロローグ

もう、疲れた。


男の感想はそれだけだった。


三十年という月日は、男から若さを奪い、家族を奪い、気力をも奪っていった。


初めは金になるからと始めた傭兵稼業、同じ日にギルドに登録した友が死に、同じ戦場で笑いあった仲間が消え、同じ歳の男女が引退し、いつしか自分を深く知るものはいなくなっていた。


男は決して強くはなかった、只ひたすらに、死なぬよう、目立たぬよう、必死になって生き抜いただけであった。逃げることだけが得意であった。


そして、気が付けば三十余年。

勝馬に乗ったこともあった、戦いにすらならない戦場もあった、裏切られた事も、裏切ったこともあった。


だが、それももう古い思い出。

男が産まれる前から続いていたという戦争は、なんの拍子かあっさりと終わりを告げた。


男は困惑した。金の為に始めた筈の傭兵稼業は、いつしかそれ自体が男の生きる意味に変わっていた。


故郷には待っている者も居らず、戦後報酬として貰った金貨は、死ぬまでに使い切れるかと言う量になり、最後の戦場に立つ前に新調した武具は、一度も使われず新品のまま。


改めて思えば、傭兵以外に出来ることなど無く、財産を遺す相手も思い当たらず、本当に自分には何も無いのだと突き付けられる。


いっその事、何処かの田舎に家でも買って過ごそうか。


家を買ってもなお懐に余る金貨があれば、死ぬまでは暮らせるだろう。この金で奴隷を買っても良いな。


決して前向きでは無く、後ろ暗い考えを浮かべながら歩く男の耳が、小さな、本当に小さな泣き声を捉えた。


早足で声のする方へ向かった男が見たのは、背中を大きく斬られた女性の姿。そして、大切に抱えられた小さな赤ん坊。


戦場ではよく見た光景だ。しかし男は既に傭兵ではなく、彼女は敵でも味方でも無い。


助けたい。

それは、男に初めて生まれた感情だった。


脈を見ると、まだ生きている。男はすぐに薬草を噛んで女性の背中に貼り付け、包帯でぐるぐると巻いた。


自身の外套を切り裂き、背負紐にして女性を背負い、赤子を大事に胸に抱いて、近くの村に歩き始める。


金の使い道は、決まったなあ。

男は現金な自分を笑いながら、しっかりと大地を踏みしめた。


この出会いこそが、自分が歴史に残るきっかけになるなどと、男は生涯知らないままで。



▲▽▲▽▲




後の歴史家は、謎多き傭兵、「負けずの敗者」について頭を悩ませた。


功績は無く、有名であった訳でもなく、しかし、歴史の分岐になったであろう大きな戦においては、必ず参戦していた記録が残っている。


常に戦いを求めていたという記述がある。

最高の傭兵であったという記述がある。

最低の臆病者であったという記述がある。

生き汚い男であったとも、死に場を求めていたとも言われている。


この男の事が解らない、解らないがただ一つ、確実に伝えられている事がある。


それは、彼の孫娘、絶剣ぜっけんの英雄が日頃から言っていたという言葉である。




―あの人こそ、最高の父であり、最愛の祖父であり、最強の師だった。私の全ては、お祖父様に与えられたのだ。




▲▽▲▽▲




これは、傭兵という仕事が、便利屋と呼ばれ始めた頃、平和になりつつある世界で巻き起こる、一人の少女と、それに関わる人々の物語。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ