"観測士"は案内人たるか
「というわけで、いちいちぎくしゃくしてたらメンドーだろ」
顔を見るという行為でスイッチが入るようで、そうなってしまうときれのいい明朗な口調は途端にしどろもどろになってしまう。そういうわけで顔を伏せることにしたという。
「タイヘンなんダネ」
「まーな」
さて、観光といっても何処から行ったものか。"観測士"としてベルミア大陸に詳しいつもりだが、ベルズクリエの観光名所なんて連れて行ったところであまり実入りがあるものでもなさそうだし。迷いかねてエメットは唸った。後ろではアルフがじっとその背中を眺めていた。
その土地を知らない人間にその土地の特色を教えるには何に触れさせるか。本来の目的に沿いつつ観光という建前も満たせる場所は何処だろうか。そういうものを考えることに"観測士"の力量が出る、とアルフは思う。
エメットというこの娘、本当に独学なのだろう。情報収集には長けるが整理と伝達には弱い。"観測士"とは集めた情報を整理して誰に何を伝えるかが重要なのに、そこの技術が抜けている。本質を知らず、"観測士"とはただ情報に詳しい人物という先入観だけを信じそれを満たしているだけだ。
「う……じゃぁあんたならどうするのよ」
ぐさりと図星をさされて口ごもるエメットがささやかな抵抗に出る。身内だけでこもる閉鎖的なベルミア大陸の気風では積極的に他者に関わろうという人間があまりいない。あらゆるところに網を張り情報を集める"観測士"という人間は気風に合わないのだ。川の流れに網を張っても、水草の影に隠れる魚は捕らえられない。水草を刈り取って網を突っ込まなければ魚は獲れない。そして水草を刈り取ろうとすると魚たちはいっせいに逃げ出してしまう。よほど上手くやらなければ大漁とはならない。特にその傾向はヴィリア国に顕著で、つまりすなわちベルミア大陸で"観測士"が活動するのは難しいのだ。
後ろ暗いところがなくとも、人間はどうしたって懐を探られれば逃げたくなる。だからベルミア大陸にいる"観測士"は自らを"観測士"と公言しない。今から漁をすると魚に宣言する漁師がいないように。
だからエメットも師となる"観測士"を見つけることができなかったのだ。独学で自らの技術を磨いて見つけ出し、そしてきちんと師事してもらうつもりで今までやってきた。
「なんで俺に振るんだよ」
何処に案内してもらえるか楽しみにしているのに。アルフが口を尖らせた。
なんか行きたいところはない、とエメットは猟矢に話を振った。水を向けられた猟矢は、えぇと、と考え始めた。
「あぁ、そうだ」
そういえば、と。知らない土地の特色を知るには市場に行けばいいのだと聞いたことがある。市場には必ず観光客のために名物や特産品が並べられる。その土地がどんなものか知るにはうってつけだ。
市場に行きたいという旨をエメットに伝えれば、エメットは頷いた。
ベルズクリエ国が首都、スペンシーベルト。首都というだけあって、国中の物品が集まる。パンデモニウムの影に怯えつつも市場にはわずかながら活気があった。
ちらちらと往来から視線を感じるが、それは仕方ないものだと受け入れるしかないだろう。多少居心地が悪いがそのうち慣れると信じたい。
「何が見たい? 食べ物? 服? 武具? 来たことないからあんまり詳しくないけど……」
石造りの市場はエルジュのそれとは違う様相を示している。エルジュの市場は布を張った屋根の下で小さな露店が並んでいるのに対し、ここの市場は1つの巨大な建物の中に店が並んでいる。
1階建ての石造りの平屋の中を衝立や壁で区切って店舗を作っている風景はエルジュと大きく違っていた。エルジュの露店では布を敷いた地面の上に商品を並べているが、こちらはきちんと棚を据えて陳列している。エルジュにもそのような様式の店舗はあるが、床置きの露店が多い。
「あっちに土産やろうぜ」
来たものはいいものの、何を買い求めるかを決めていないのでどの店に行くか悩みあぐねている猟矢の様子を察してアルフが提案する。あっち、というのはキロ島に居残っているバルセナたちのことである。
3人が喜びそうなもの、と方針を決めれば店にも入りやすいだろう。問題は3人が喜びそうなものがここに売っているかである。
「バルセナには上等な布地か装飾品、ダルシーには観葉植物の鉢とか種とかでいいとして……ハーブロークにはうまいもんやっておけば文句言われないだろ」
「なんだよそれ。…まぁそうっぽいけど……」
後で聞いた本人から扱いがぞんざいだと文句を言われそうな言い草だが、だいたい合っている気がする。さて方針も決まったところだしそれに合う店を探そう。
「いい店教えろよー?」
「もちろん! 任せて!」




