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分かたれる芽

「目的の達成というと…脱走者を餌にオーダー級を釣るってハナシ? それとも同盟加入の説得?」

「どちらも」

反パンデモニウム組織に所属する身としては後者を優先してほしいところだが、最終的に両方達成できるならどちらを優先してもいい。

そこまで説明を終えたユミオウギは、ふぅ、と息を吐いた。普段あまり喋らない方なのにこれだけの長文の説明をして顎と舌が疲れてきた。だが正確な情報を与えておかねば彼らだって動きようがないだろう。あちらに着いてからゼロから情報収集をしている時間はない。到着前に知っておくべき前提知識であるならなおさらここで伝えておかなければ。

「やぁ聞いたよ。ベルミアに行くんだって?」

こんこん、とノックの音と同時に顔を覗かせたのはスティーブだった。キロ島に保管してある研究資料と文書の保存状態を確かめ終えて会議室に戻ってみれば、猟矢たちはベルミア大陸に発つと聞いた。その目的と事の発端、パンデモニウムからの脱走者のことまで教えてもらった。

「ベルズクリエなら故郷だから地理には詳しいんだけどね、案内できないのが残念だよ」

こういう状況でなければ案内と戦力のためについていくのだが。申し訳なさそうにスティーブが頭を下げた。

これ以上クレイラ島を空けておくわけにはいかない。パンデモニウムによって領主が殺された騒動がおさまったばかりのクレイラ島はまだまだ情勢不安定なのだ。騒動の際に兵士たちも殺され警備は手薄。その穴を埋めようと、自警団である自分たちが東奔西走している。その自分たちだってスティーブを含めて3人しかいない。今あの砂漠の島にいるのは記憶喪失の少女と愛しい妻の二人だけなのだ。早く戻らなければならない。

「そのお詫びと言ってはなんだけど、ひとつだけ教えておいてあげるよ」

すべて教えてしまう必要はなく前提知識だけでいいと思っているユミオウギが決して教えようとはしないことだ。これからなす目的にあまり関わることがない話だから知らなくても構わない。だが知っておけば少し有利になること。それなりの腕がある"観測士"なら自分で調べて答えに行き着くはずなので教える必要はないが、調べる手間を省くために教えておこう。

「この手のはベルズクリエが顕著だけど」

家を存続させるため、ベルミア大陸4つの王家は一夫多妻制である。直系の子供が娘であるなら多夫一妻。要は嫁婿をどんどん迎え入れる制度がある。そうしてどんどん子供を生む。生まれた子にも同じようにたくさんの伴侶をあてがう。

つまり王家といってもものすごく数が多いのだ。直系と傍系、本家と分家で区別はされているが、"王家の血筋を引いている"だけならたくさんいる。スティーブもそうだ。傍系の端くれなので直系の血などほとんどないが。

そして多々増やした一族の人間を世界中に拡散させる。自国の有力な名家や隣国の有力貴族は当然、大陸の外まで。対立するふたつの勢力があれば、そのどちらにも。何があってもどこかしらに自分の血統が残るように。

そうしてステイーブも"アトルシャン"に派遣されてきたわけである。個人的にパンデモニウムが気に入らないとかいろいろな要素が噛み合ってこの地位にいるようになった。

そしてそれと同じように、シヴァルス国の王家もまた同じことをしている。しかもステイーブのような末端の血族でなく直系に。

「シヴァルスにある支部には現領主の妾の子がいるんだよ」

その子は領主が気まぐれで手を出して孕ませた下働きの女の息子だった。貴族が平民を、などということは醜聞であり、だから公表せず田舎に隠して育ててきたのだそうだ。だが即座に妻にばれてしまい、そのことはシヴァルス国において公然の秘密となったわけだ。

そしてその支部には、今回の騒動で叩き出された次期領主もいる。ノーブル・コンダクトの会議の場でパンデモニウムと戦うことを提案した彼女は勘当を言い渡されてそこに転がり込んだ。

つまりあの支部は、次期領主である直系かつ本妻の子と、非公開の公然の秘密である妾の子が同時に存在しているという不思議な状態にあるというわけだ。その二人がどういう仲なのかまではステイーブには知らないことだが。

「役に立つのかよそれ」

「さぁ? 役に立つかどうかは君ら次第だろう」

情報をどう活かすかは"観測士"の腕の見せ所だ。ハーブロークの問いをいなしてステイーブはちらりとアルフを見た。

「さて、準備という名の情報収集はもう十分だろう? 行っておいでよ」

願わくば良い知らせを持ってきてくれるといい。勘当されて叩き出されたとは言えシヴァルスの次期当主がこちらの手元にいる。それを足がかりに説得し、ノーブル・コンダクトを引き込めばパンデモニウムは孤立する。元々アッシュヴィトがビルスキールニルの皇女だ。ノーブル・コンダクトどもと顔見知りか、そうでなくとも"不滅の島"の権威は知っているはず。説得の足がかりは十分ある。

実際にどうするか、どうなるか、どうしたいか。路線を決めるための情報は与えたしもうキロ島で準備することはない。あとはなるようになる。

「ついでにステイーブ、ひとつ聞くけど」

「なんだい?」

「ステイーブの名前は使えるノ?」

アッシュヴィトがビルスキールニル皇家の名を使えるように。ステイーブの名前はベルズクリエで融通をきかせることができるのだろうか。

「あぁ、無理無理。僕末端だし」

自分の姓を思い出してほしい。ベルズストーンだ。ベルズクリエではない。血を引いてはいるが、引いているだけだ。一応継承権は持っているがそれも何十番目。ベルズクリエが全滅しない限り王冠は戴けない。そんな人間の名で何を融通させようというのか。


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