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悪徳の

運用は早計だったか。パンデモニウム第1位"デューク"であるロシュフォル・ザンクトガレンに報告を述べつつ深淵の魔女は内心で溜息を吐いた。

"破壊神"が打ち出した魔力はセシルの想像を越えた威力を叩き出すことができた。着弾点となったあの土地はもう向こう数百年ほど人間が生活できない範囲となった。すべては歪み、ひしゃげ、潰れた。その残骸でさえ蹂躙されていく。

威力は予想以上。だがコントロールが良くない。打ち出した反動でひっくり返って狙いがぶれるようでは運用には程遠い。土台を強化するため足腰に肉をつけさせろと命じ、素材集めを指示したが、そんなものすぐに効果があらわれるわけでもない。2日3日でいい素材が都合よく見つかり集まるわけがない。

しかも狙いが悪い上に、反動のせいで肉体がいくらか欠損してしまった。ラットゥン・アップルたち科学研究者たちが慌てて培養槽に戻し肉体の補填を行っている。

しこたま狙いが悪いのを一発打っただけで"破壊神"が運用不能になるなど。まったく冗談ではない。神を殺す武器がこんなにも扱い辛いとは。

今はパンデモニウムにとっては厳しい状況なのだ。パンデモニウムに反抗する有象無象の勢力がひとつにまとまり、大同盟となっている。大陸ひとつ反逆したところでと侮り、対処を怠ったのが失敗だった。見張る程度で済ませていたら周囲の島々を組み込んで大同盟になってしまった。

ディーテ大陸が一眼となったあの時点で潰していればこうはならなかった。今まで放っておいたつけが一気に来ている。

こうなった今、パンデモニウムに服従する国はベルミア大陸のみ。それも積極的に従うわけではなく、今日を平和に過ごせるだけを望む消極的な服従。穏やかな今日さえ送れれば尻尾を振る相手は誰でもよく、パンデモニウムの完全なる味方というわけではない。もし"コーラカル"とやらが積極的にベルミア大陸を保護し警護し安全を保証すると約束したなら、手のひらを返すだろう。

だからこそ圧倒的な力を望み"破壊神"を運用したのだ。反パンデモニウム勢力の発端であるキロ島を潰し、この力を見せることで"コーラカル"を威圧し、その団結にひびを入れる。それこそが狙いだったのに。

「ヒトにはまだ早いのか…」

神を殺し、その存在を越えるということは人間にはまだ早いのか。

この世界を統べる神々を廃し、そして我らパンデモニウムがこの世界を手に入れる。それこそがパンデモニウムの最大の目的だというのに。

世界を手に入れる。我々パンデモニウムのものとする。そのためにセシルはこの地位にいるのだから。

「あぁ、そうだ。世界を手に入れろ」

玉座から偉大なる"デューク"の声がして、セシルは雷に打たれた気持ちで膝を折った。

「世界を手に入れろ」

再び命令する声をうなだれて聞く。仰せのままに。そう答えるセシルに再三の命令が下る。

「世界を手に入れろ」


「なぁ、聞いたか?」

「あぁ。本当に"破壊神"とやらが起動したそうだな」

パンデモニウムが生み出したそれの破壊の規模の様子は、末端である自分たちも伝え聞いている。着弾点となったアルフェンド国は誰一人立ち入ることなどできぬ悪夢の坩堝と化したそうだ。そのことを聞いて、思わず背筋に冷たいものが降りた。

「俺たちはもしかして、とんでもないものを作ったんじゃないのか…?」

神を殺すということを目標に作られたもの。あくまでそれは目標であり、達成など到底できないものと思っていた。それがまさか実現してしまうとは。空恐ろしいものさえ感じてしまう。

怖くないのだろうか。カーディナル級やその上にいる人物たち、そして当のそれを生み出したラットゥン・アップルたちは怖くないのだろうか。神を殺すために作ったのだから神を超えてもらわなければ困ると平然と言い放つのだろうか。

「やっぱりあの噂は本当なんじゃ…」

噂というのは、パンデモニウム内でまことしやかに囁かれているものだ。

パンデモニウム第2位"アークウィッチ"、セシル・ロベストは人工的に作られた存在であるというものであった。誰が言い出した噂なのかはわからない。だが5年前、突如として現れた深淵の魔女はそれ以前の経歴を持たなかった。何処で生まれ育ったのか、一切の情報がないのだ。やむを得ない事情で消したわけではない。そんな工作の痕跡などまったくのない空白。

そして人間らしい情緒を見せたことのない深淵の魔女の風貌はその噂に信憑性を持たせていた。今現在の姿で人工的に作られたとするなら過去の経歴がないことに説明がつくし、感情に乏しいことも理由ができる。

パンデモニウムという存在のために作られた人工的な魔女だから、神を超えるということに恐れも何も抱かないのではないだろうか。

「ばか。お前、滅多なことを言うな」

不安を口にする同僚をたしなめる。こんなこと聞かれたら命が危うい。いたずらに不穏を口にし不安を煽る者はオーダー級に裁かれてしまう。誰が聞いているかもわからないところで滅多なことを喋るべきではない。

噂をすれば影がさす。廊下の向こうに当の魔女の姿が見えて、思わず背筋を伸ばした。しかも隣には秩序の筆頭ことグランド・オーダーのネツァーラグ・グラダフィルトが立っていた。どうか今の言葉が聞こえていませんように。

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