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閉じられた中を割れ

ベルミア大陸は停滞のような安定を求める気風だ。今日を平和に過ごすためなら明日を犠牲にする。"いま"の安寧さえ得られるならばそれでよい。"これから"など考えない。未来に積もる負債など見ないふりをして今日の平和を享受する。

"コーラカル"と同盟を組みパンデモニウムと事を構え騒乱の日々になるくらいならば、パンデモニウムに膝を折り尻尾を振って媚びて殴打を免れる。今日殴られなければそれでいいのだ。

「相変わらずだネェ…」

「ところがそうでもないそうだよ」

そうでもない、とは。真意を訊ねようとしたアッシュヴィトの言葉をいったん遮り、任せていいか、とカガリはユミオウギに話の主導権を投げた。

寡黙な性分を知っているだろうに説明係をさせるとは。意地悪め、と溜息を吐いてユミオウギは渋々口を開いた。

「脅し…実際にはキロ島への誤爆だが……タイミングがぴったりすぎてな」

あまりにも的確すぎて効果覿面だった。それは逆に、"コーラカル"同盟加入の打診がきたと聞いて即座にベルミア大陸に脅しをかけなければならないほどパンデモニウムが追い詰められているのではないか、ということだ。

今までパンデモニウムは、多少の反パンデモニウム勢力など無視してきた。地方に散在する有象無象のまとまりのない集団などと言って歯牙にもかけなかった。その程度で揺らぐほどパンデモニウムは脆弱ではないと、自らの強大さを示すように。実際にパンデモニウムは世界全土を支配していた。

それが今やどうだ。ディーテ大陸はまとまり、ひとつの大同盟を立ち上げた。それに次々と諸国が加入していっている。パンデモニウムに加勢するのはベルミア大陸のみであり、そのベルミア大陸の4国も現状維持だけを望み積極的に味方するつもりはない。

ここでベルミア大陸を押さえねば味方はいなくなる。全世界が連携して牙を剥いてくるのだ。

「だから脅しをかけた。…裏を返せばパンデモニウムは焦ってる」

それを分析したのはベルミア大陸が1国、シヴァルス国の次期後継者だ。"観測士"に憧れその技術を学んだ彼は閉鎖的なベルミア大陸にあって広く自由な視点を持つ。

パンデモニウムは焦っている。そこに付け入り、反攻作戦に及んではどうだろうか。このままパンデモニウムを野放しにしておけば"破壊神"によって明日どころか今日すら壊れてしまうぞ、と。4国が集まる議会であるノーブル・コンダクトの中でそう論じたらしい。

「直後に議場の外に引きずられたそうだ」

パンデモニウムと事を構えるつもりか。貢物さえしていればパンデモニウムは我らに手を出さず、平和な"いま"が送れるというのに、それを破って"いま"に戦乱を呼ぶつもりか。そう父親、つまり現領主に殴られたという。

「つまり政治的な姿勢としてはパンデモニウムに従順でいる。…が反抗をしようという意見も出てるってことだ」

その当の次期後継者はその場で勘当を言い渡され、シヴァルス王家から追放された。仕打ちに怒った次期後継者の彼女は、市井に混じり社会勉強をしていた時の馴染みの自警団の元に身を寄せた。その自警団を用いて反パンデモニウム組織を作ろうという狙いであった。

だが、その自警団こそが"アトルシャン"の支部だった。彼女の身分を預かっていた頃は立場を隠していたので彼女は知らなかったが、すでにその自警団は反パンデモニウム組織であったのだ。

もうこうなっては隠す必要もない。自警団らは"アトルシャン"の存在の情報を開示し、そして意気投合した。今は国内の人目を逃れ、隣国のベルズクリエ国の支部の拠点にいるそうだ。

「この一連の情報は本人から送られたってわけ?」

「そうなる」

今しがた届いたばかりの情報だ。そういうわけで、ベルミア大陸内の"アトルシャン"支部の比較的自由に動ける人間はほぼ一箇所にまとまっている。ヴィリア国にも支部はあるが、あそこは監視が厳しすぎてろくに活動できず雌伏の時を過ごしている。決起すれば応えるが、自発的に行動するのは難しい。アルフェンド国の支部は言わずもがな全滅である。

「"不滅の島"の皇女殿下、ひいては我らの旗印。ひとつ聞きたい」

「ナァニ?」

話の腰を折るようで悪いのだが、ひとつ聞きたいことがある、とユミオウギが言うには。

ベルミア大陸の王族たちと面識があるのかどうか、だ。顔見知りであれば都合がいい。

「知ってるヒトもいれば知らないヒトもいるケド…それが?」

「貴殿らに潜入を頼みたくて聞いただけだ」

今、ベルミア大陸は非常に混乱している。数人なら他国から入り込んでもばれはしないだろう。そしてベルズクリエ国内の支部の面子と合流し、ノーブル・コンダクト議会を説得して同盟に引き込む。それがユミオウギの提案だった。

「貴殿の権威なら話を聞かせることくらいは……ん?」

不意にユミオウギが耳に手を当てた。何やら緊急の報せが入ったようだ。同じ通信がカガリにも入ったようで、カガリも耳を傾けている。

話の途中ですまない、と口の動きだけで謝った彼は、聞こえてくる報告を聞く。

「……は?」

「…あらまぁ」

そして同時に、驚きの声を上げた。

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