何を生むか
いったい何の用事の連絡だと視線を向ける一同に、口の動きだけで用件を簡単に伝える。しかし努力虚しく、読唇術なんて知らナイヨ、と返され、アルフは眉を寄せてポケットから手帳を取り出す。適当なページを開いて付属のペンで書きつけることにした。
「……あぁうん、聞いてるって」
適当に返事をしながらペンを走らせる。さらさらとペンを走らせたアルフは文面を猟矢たちに見せた。
エルデナから。武具について。変調の有無。メンテナンス。調整の必要はあるか。そう書かれた文面から読み取るにこうだろう。
今しがたの衝撃と魔力の拡散によってベルミア大陸の各地では武具に変調が起きた。ただの火打ち石程度の発火武具が暴走して家を焼いたし、浄水のための武具は効果を反転させて泥水を吐き出した。それと同じように、アルフたちの武具にも変調は起きていないか。そう心配したエルデナが連絡をしてきたようだ。
「わかったわかった、なんか異常があったら言うから……いや聞き流してないって。ジョーダンじゃねぇ」
話が長いのは、おそらくエルデナが武具というものの繊細さについて長々と説教を垂れているせいだろう。複雑な魔術式で作られる武具はちょっとした影響で簡単に効果が狂う。だからその扱いについては非常に慎重でなければならない。そういうことを説かれているのだろう。
しばらくエルデナと話した、というより一方的にまくしたてられたアルフは、ふぅ、と息を吐いて通信を切った。やれやれと言いたげな顔をして軽く肩を竦める。
「気合入ってるのはいいけど、肩に力入りすぎだよなぁ」
偉大な師であるグウィネス・ガラトが亡くなり、自分がその跡を継ぐのだと意気込んでいるのはいいことなのだが。肩に力が入りすぎて空回りしないか心配だ。
「まぁエルデナはいいとして」
話を戻そう。あれが猟矢の怠慢の罪だというのなら、そのためにはどうするべきかだ。
そんなものは決まっている。パンデモニウムを倒すことだ。それ以外にない。
「あの日、ボクタチが…ビルスキールニルの民が味わったように、ネ」
何一つ残すことなく滅ぼして誰一人残すことなく殺すのだ。ほの暗くアッシュヴィトが呟いた。
許さない。皆殺しにしてやる。その感情は常にアッシュヴィトの中で渦巻いている。パンデモニウムと名のつくものはすべて抹殺してやる。その復讐のために亡国の皇女は力を求め、神はそれに応えたのだから。そしてそのために猟矢はこの世界に召喚されたのだから。
「復讐は何も生まないぞ」
「知ってるヨ」
生む生まないなどどうでもいいのだ。ただ自分の胸がすくためだけに復讐の道を歩む。無残に殺されたビルスキールニル国民が望んでいるかなどアッシュヴィトにはどうでもいい。自分の気を晴らすために武器を取った。
「人のこと言えナイヨネ。…ね、バルセナ?」
「……まぁね」
話を向けられ、バルセナは片方しかない目をすがめた。復讐がどうこうなどという話はバルセナだってよく知っている。呪いによって鷹に変えられた恋人の復讐に剣を手に取った。
何も生まない不毛なものと知っていてもやらなければならないことはあるのだ。自らの気持ちの救済のために。
「それに、生むモノだってあるんダヨ」
不調和の律動が正されし時、あるべきものはあるべきところへ。理不尽にむしられた魂は安息を得る。
それはアッシュヴィトが神と交わした契約だ。アッシュヴィトの手によってパンデモニウムが滅んだ時、神の力によってビルスキールニルは時間を巻き戻し、滅亡の出来事は帳消しになり死者は蘇る。
だからまったく何も生まないわけではないのだ。復讐を遂げられて自分の気持ちは救済されるし、神との契約によって亡国は再興する。
「ま、確かにパンデモニウムがいなくなりゃこれ以上の被害はねぇか」
パンデモニウムがいなくなれば、パンデモニウムによって虐げられる世界が救われる。
アッシュヴィトの言葉裏など知らずそう解釈したハーブロークは議論を打ち切った。これ以上復讐の正当性について議論する必要はない。誰もそう変わらないのだから。
「ご歓談中失礼します」
こんこん、とノックをしてカガリが顔を覗かせた。どうやら休憩の時間が終わったので呼びに来たらしい。
「皆、どうにか落ち着いたようで」
時間を置いたことで気持ちの整理と状況の整理をある程度つけることができた。議会は元の落ち着きを取り戻してこれからのことを考えようとしている。それと並行して、"コーラカル"同盟にキロ島が正式に加わる手続きも進めているという。同盟が締結されれば、"アトルシャン"は"コーラカル"に吸収されることになる。
「自分が産んだ子に吸収されるというのも中々」
元々、"アトルシャン"がディーテ大陸に置いた支部がまとまり、ディーテ大陸の各国と結びついたのが"コーラカル"だ。"アトルシャン"から見れば、自身の子供に吸収されるようなものだ。
「でも支部を置いてあるおかげでココまでスムーズにいったんだし、ソコはネ?」
「えぇ」
各地に置いた支部が道筋となって各国と結びつくことができたのだ。それと同じように、ベルミア大陸の国々ともあっさり同盟を締結できればよいのだが。
そんなことを思いつつ、会議室の扉を開けた。




