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モノガタリの終焉を叫ぶ口

心配するアルフになんでもないと答えつつ、猟矢は肌をじんわりと伝う冷や汗の感覚を味わっていた。

終わらせてくれ。その言葉を聞いて、猟矢は"破壊神"の正体を直感で理解した。あれは、自分が今まで途中放棄してきた物語の成れの果てだと。

そもそも、この世界は猟矢が作った創作の集合体である。証拠はないが、確かにそうなのだ。今まで猟矢が出会った人も行った場所も、過去の創作によく似たものがあった。それらは設定だけ作って完結せずに途中放棄したものたちだ。

亡国の皇女もパンデモニウムも、それに対抗しようとする勢力も。神に愛された島も砂漠の島も森林の島も海辺の貿易都市も機工都市も。海を統べる大海竜も山と見間違えるほどの巨大な岩竜も。それらはすべて、過去に猟矢がノートに綴った物語のかけらたちなのだ。

それを"破壊"するモノ。終わらせてくれと叫ぶ声。それらは途中放棄された物語のかけらたちが出した悲鳴だ。終わらせてくれ。作って放置した話を。紡ぎかけた物語を。終わらせてくれ。完結させてくれ。完了させてくれ。ピリオドを打ってくれ。それは、産み落とされて放置された物語たちの悲痛な叫びだ。

今まで見なかったものたちが突然目の前に現れて背中をつついている。期限ぎりぎりになって白紙の宿題を発見したような焦燥の何倍も強い感情が猟矢を襲っていた。

自分が今まで放置してきたもののせいで、ひとつの国が滅ぶほどの事態が起きてしまったのだ。確かにこの世界は猟矢の創作の寄せ集め。だが、そこに暮らす人間は生きているのだ。それらを刈り取ったのは、紛れもなく今まで捨て置いたものたちなのだ。

もし仮に、自分がきちんと創作を完結させる人間であったのなら、こんな事態は起きなかったのではないか。その罪悪感がずしりと猟矢にのしかかる。

「サツヤ?」

魔力酔いでも起こしたか。アルフに続いてアッシュヴィトが心配そうに声をかけた。ちなみに自分はというと、思いっきり酔いが回っていてひどい目眩がする。

猟矢はさっきから何でもないと言い張っているが、その顔色は何でもない顔色ではない。明らかに何かまずいことがあった顔だ。例えば、期限ぎりぎりになって白紙の宿題を発見したような。

それを問い詰めるのは簡単だが、この場ですることではない。ともかくもこの混乱状態を落ち着かせることが先決だ。

「はぁ…もうクラクラするヨ…少しキュウケイしてもイイカナ?」

「えぇ。他にも魔力酔いを起こしている人もいますし、それがよいかと」

あまり表情が動かないので目立たないが、ダルシーも具合が悪そうにしている。精霊を尊ぶアレイヴ族はそれなりに魔力に敏感だ。わずかな濃度の差でも感じ取って心身に異常をきたす。そんなアレイヴ族があの衝撃で世界中に拡散した魔力に反応しないはずがなく。

ダルシーだけでなく、他にも体調に異常が出ている人間がちらほらいる。魔力酔いだったりそうでなかったり人によって様々だが。カガリ自体もこの事態の情報が集まってくるにつれ、想像しうる"破壊神"の全貌に目眩がしてくる。なんと神を恐れぬ神をも凌駕する存在かと。

事態は深刻でそれどころじゃないことは重々承知だが、いったん間を置いて心を落ち着ける時間が必要だ。あの衝撃と地震によってこの会議室も散らかってしまった。床には報告書の束が散り、倒れたインクの瓶が染みを作っている。一度この会議を解散し、後で再び招集するとしよう。

「ともかくも…3時間後に再招集しましょう。それまでは自由に」

「あ、じゃぁ俺師匠の手伝いします」

やけに気まずそうな顔をしている猟矢のことも体調を崩したダルシーのことも気になるが、そちらはバルセナやハーブロークたちに任せるとしよう。自分にしかできないことをやるのが先決。そう判断したアルフは小さく手を挙げて名乗りをあげた。

ユミオウギも小さく頷いて了承を示し、ついと顎で指してアルフについてくるよう示す。

「そうだ。僕の研究資料!」

あの衝撃で資料保管庫が倒壊していないといいが。いったん解散と聞いたスティーブは慌てて会議室を飛び出し何処かへ駆けていった。やれやれ慌ただしいものだ。

「別室の用意ができたようで。どうぞそちらへ」

準備ができたことを"千里眼"で見通したのか、カガリがアッシュヴィトたちを促す。頷いてそれについていく。会議室のふたつ隣の応接間に通された。内装は広さの規模が違うだけで会議室とほぼ変わらない。肘置きのない椅子をいくつか並べ、バルセナが簡易の寝台を作る。その上にダルシーを寝かせた。

「……ありがと」

「どういたしまして」

ダルシーの横に椅子を置き、そこに腰を落ち着けたバルセナが微笑む。その隣にハーブロークが座った。よっこいしょ、と大仰に声を出してみるものの、誰からの揶揄もない。こういう時、猟矢あたりが指摘するのだがそれがない。

よっぽど何かあったな、とハーブロークは思った。バルセナもアッシュヴィトもそれを感じている。感じているがどう切り出したものかと迷っている雰囲気を感じた。ハーブロークだって思いつかない。こういう時は変に気を回さず直球で訊ねるのがいい。というよりそれ以外方法が思いつかなかった。

「おいサツヤ。どうしたよ」


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