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過重墜落

終わらせて。終わらせて終わらせて。終わらせて。終焉を。終端を。成し遂げて。仕上げて。成し終えて。完了を。完成を。閉幕を。終結を。

何を。

――いのちのモノガタリを。


どん、と。世界が割れたかのような轟音が響いた。衝撃で一瞬身体が浮いた。びりびりと空気が震える。ひとりでに花瓶が倒れた。地鳴りがする。

「何…?」

咄嗟に机の下に隠れた猟矢は言いさして慌てて口を閉じる。下手に口を開けば舌を噛みそうだった。突き上げるような激震が続く。最初の衝撃から1分は経ったはずだ。それなのに振動は続く。まるで世界の終わりのようだった。

バルセナを抱き込んだハーブロークは心の中で数を数えて心臓を落ち着けようとしていた。突然の衝撃とわけもわからぬ振動に動揺し、不安を恋人に伝わらせるわけにはいかなかった。振動で倒れ、机の上から転がり落ちてきたコップを左手で跳ね除けた。

衝撃で一瞬身体が浮いたダルシーはそのまま床にもんどりうった。その上にばさばさと資料の紙の束が落ちてくる。どうにか体勢を立て直し、転がるようにして机の下に這い逃げる。紙に埋もれただけで怪我はない。倒れたインク瓶が床に滴り、黒い水溜りを作っているのが見えた。

「ジョーダンじゃねぇ、って!」

何が起きてもまずは状況観察から。"観測士"である本分を思い出したアルフは額に押し上げていたゴーグルを引き下ろそうとする。その手すら地震の揺れでぶれて安定しない。勢い余ってずるりと首までずり落ちた。それを横から割り込んだ手が目の位置まで引き上げる。

「冷静に」

言葉を短く切って師匠ユミオウギが言う。すでに自前の"観測"用ゴーグルは装着済みで、あたりの状況を把握しているようだった。花瓶が倒れたり机の上の資料が散らばったりで多少混乱はあるものの、この建物自体は無傷であると"観測"している。

「カガリ様」

「大丈夫。視えておるよ」

"千里眼"の力で島の状況を視たカガリは伏せた身体をゆっくり起こす。まだ振動は続いているが、話すに支障はない程度に落ち着き始めている。このまま揺れは減衰していくだろう。

衝撃が着弾した時、真っ先に思いついたのは"破壊神"とやらによる攻撃だった。本隊として兵を派遣するのではなく、"破壊神"でもって直接叩く。そうすれば世界中への見せしめになるだろうからだ。

だが、その予想に反して島には何も被害はない。先の戦闘、および衝撃による地震で脆い建物がいくつか倒壊はしたが、被害と呼ぶほどでもない。何も島には異変がない。そうとわからぬように衝撃のどさくさに紛れて何かを仕込んだようにも感じられなかった。

キロ島では何も起きてない。では何処で何が起きたのか。事態を把握しようとするカガリの耳に通信武具の着信が届いた。イヤーカフ状のそれを耳から強引にちぎり取ったカガリは、この室内にいる者にも聞こえるように音量を最大まで引き上げた。

「…緊急! ベルミア大陸の方面で未確認の……」

着信はミーニンガルドに駐在する"アトルシャン"の支部からだった。発信しているあちらでも混乱があるのか、緊急を報せる声は要領を得ない。

要約すると、謎の衝撃が発生した。地鳴りを伴う激震はミーニンガルドだけではなく、エルジュやゴルグひいてはディーテ大陸のすべてで観測された。混乱する人々が見たものは、空を貫くような太い光の線条が地平線の向こうに降り注いでいた光景だった。それがベルミア大陸の方角だった、ということらしい。

「つまり、ベルミア大陸のドコカでナニかが起きて、その余波…ってコト?」

「おそらくは」

そして何処かはともかく、何かというのは"破壊神"による攻撃のことだろう。やつの攻撃がベルミア大陸の何処かに着弾したのだ。突然の衝撃は攻撃の着弾で、その後の地震は余波だ。

それが明確にベルミア大陸を狙ったものか、それともキロ島を狙って外したものかは判断がつかないが。

「おいおい…それって…」

キロ島からベルミア大陸までどれだけの距離があると思っている。キロ島から最も近いヴィリア国でも船で数日かかる。精霊の力を借りて牽引する高速船で、である。その距離で、これほどの衝撃と振動を起こすとは。それならば直下点ではどれほどの規模だろうか。

ジョーダンじゃねぇ。アルフが引きつった笑いを零した。神に匹敵するという売り文句ははったりではないということか。嘘でも誇張でもなく真実。

「アレが…ネェ……」

確かにこれはとんでもない。怒れる神の裁きでも起きたのかと錯覚したほどだ。神殿で話していた時には人間に不満がある素振りなど見せなかったというのに。この短時間でいったい何処の誰が神の不興を買ったのだと恐れてしまった。

神を使役するアッシュヴィトが思わずその力を神のものと勘違いするほど、その力は強大であった。思わず皮膚が粟立つ。無意識に二の腕を手のひらで擦った。

「びっくりしたぁ…」

やっとおさまった。はぁ、と長い息を吐いて猟矢が机の下から這い出た。うわぁ机の上がぐちゃぐちゃだ、これを片付けるのは大変だなぁとぼやく。その声音は驚きはしているものの、恐怖や畏怖という感情はない。

「怖くナカッタ?」

「え、別に。びっくりはしたけど」

いきなりの衝撃に驚いたが、その原因がパンデモニウムのせいだとわかって逆に安心したくらいだ。平然とした猟矢に、そういやお前そういうやつだったな、とアルフが小さく呟いた。

さすが規格外。この程度では慌てないということか。ジョーダンじゃねぇ。さっきとは別の意味でごちた。

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