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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
不滅の島ビルスキールニル
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火を打つ

その日、キロ島はパンデモニウムからの使者が来るとのことでざわついていた。内容は普段と同じ、キロ島の無条件服従である。その交渉のためにパンデモニウムより使者が訪れる。大金を詰み、それをどうにか宥めて中立であることを譲歩させるのも普段のことであった。交渉が割れれば使者は即座に万魔の軍勢を呼び出してキロ島を蹂躙するだろう。そうならないようにぎりぎりの綱渡りをしなければならない。

だから使者が来る日は毎度毎度気が重い。領主クロエ・エンシェントは普段よりも気を引き締めて部下へ指示を飛ばしていた。自分が"コーラカル"の後骨である反パンデモニウム組織"アトルシャン"のトップだと悟られてはならない。反撃を受けるのも大変ですねとはぐらかして煙に巻かなければならない。足がつくわけにも尻尾を出すわけにもいかない。服従とならぬよう譲歩させる交渉よりも気が張る。

「カガリ様、そろそろ使者が来る時間ですが」

「あいわかった」

そろそろ約束の刻限だ。少しでも使者の機嫌を取るためにキロ島の玄関口まで出迎えに行こう。クロエはゆるりと立ち上がった。

島内での移動は専用の転移武具を使う。島内でのみ使える転移武具を起動して玄関口の港まで移動する。

どんな転移武具を用いようとも、島の外部からの転移の到着点はこの港だ。何処に設定しようとも強制的にここに運ばれる。だからここで待てばいい。

かんかんと鉄を打つ音が市街地の方から聞こえてくる。その音を聞きながらしばらく潮風に吹かれながら待っていると、視界の端に闇が翻った。転移武具による到着だ。

あちらから言い渡された時間より少し早い。優位性を見せつけるためにわざと遅刻することはあっても早く来ることはない。珍しいこともあるものだ。そちらを向いたクロエの盲目の目は次の瞬間、信じられないものを視る。

「お早いお着きで………あらま」

大概どんなことがあっても驚かないと自負しているが、この時ばかりは驚いた。

使者といえばいつもは末端のレッター級、たまに暇を持て余すあまり使者を引き受けたカーディナル級だ。だが目の前に降り立ったそれはどちらでもなかった。

「あらまぁ、"深淵の魔女"ではありませんか」

どうにか繕って頭を下げる。まさかパンデモニウム第2位、"深淵の魔女"が来るとは。背筋に冷たいものが降りた。これはいよいよ交渉などという段階ではなさそうだ。出方を間違えれば、このキロ島は海に沈む。

緊張した面持ちで頭を下げたクロエに"深淵の魔女"セシル・ロベストは何の感情もない顔で一瞥をくれただけだった。そんな機嫌取りに構う感慨などない。さっさと本題に入るに限る。

立ち話も憚ると屋敷へと案内しようとする領主を制して魔女は口を開いた。

「"破壊神"が完成した」

「…は…?」

一瞬、クロエは意味がわからなかった。思考がその言葉の理解を停止するほどの驚愕。

パンデモニウムが神を凌駕するものを作ろうとしているのは知っている。そのためにおぞましい実験を繰り返していることも。ラピス島の巫女を攫い、知識と意識を引き抜いて人形状態にしたというのもその一環だと聞いている。

以前訪れた使者にそれとなく聞いた時には、開発は難航していると言っていた。1ヶ月前だ。だからまだ完成まで猶予はある。"アトルシャン"も備える時間はあると各地に散る組織を取りまとめていたところだったのに。

ついに完成したのか。神を凌駕するというそれが。予想以上に早い。驚愕で凍りついた思惟をどうにか動かしてクロエは思考をめぐらせる。魔女の要求は間違いなく服従だ。ここで首を横に振れば"破壊神"とやらの最初の一撃はここになる。だが反パンデモニウム組織を率いる以上、首を縦に振るわけにもいかない。そして、そのどちらかしか道はない。

「もう繕うのは止めにしよう」

す、と魔女が片手を挙げた。その背後に降り立つ複数の人影。何人も。何十人も。何百人も。

「反抗か降伏か、さぁ」


キロ島が揺れている。信徒たちの断末魔が聞こえる。キロ島の方角を見、火神カークスはそう呟いた。

「まさか…!」

はっとアッシュヴィトが顔を上げる。それと同時に、通信武具がけたたましく鳴った。

「ヴィト! やばい、キロ島が…」

アルフの焦った声が聞こえる。この様子だと悠長に神と対話をしている場合ではないようだ。ともかくもエルジュにいる皆と合流しなければならない。

「民たちには伝えておきましょう。どうかお気をつけて、愛しき我が主」

神殿を飛び出さんばかりの勢いで駆け出したアッシュヴィトの背に風神アンシャルがそう声をかけた。悠長に王宮前まで戻り、そこで待つ3人に事情を伝えている余裕はないだろう。眷属の精霊にはたらきかけてこのことを伝えよう。

アリガト、と片手を挙げて応えたアッシュヴィトは"ラド"を起動する。神聖な神殿で武具を起動するのはあまり褒められたことではないのだが、ことがことだ。この地に眠る歴代の王には目をつぶってもらおう。

「ボクを…貿易都市エルジュへ!」

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