表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
不滅の島ビルスキールニル
62/176

神の座

この神殿は神の住居ではない。神は世界の不均衡を均して秩序をもたらすため、世界中を見ている。"何処か"ではなく"何処にでも"いる。だからこの神殿は神の住居ではない。神は一箇所に留まらない。

そうやって世界中に散逸する神が一時的に具現化する場所がここだ。訪れた者の魔力を用いて、神話を元にした解釈と想像の容姿をして姿を現す。神という曖昧な概念から神という確固とした存在になる神聖な場所。

アッシュヴィトが神殿の扉を開ける。中にはすでにアッシュヴィトの解釈と想像を元にして形を取った神が座している。ある者は部屋の真ん中に座り込み、ある者は部屋の隅に立ち、ある者は得た肉体を楽しむように部屋を駆け回りながら。

「愛しき我が主、幹の子の顛末は聞きましたよ」

くすくすと楽しそうに笑ったのは樹神ラウフェイだ。神話の上ではすべての森を統べる美しい樹神と伝え聞いているアッシュヴィトの解釈によって妙齢の美しい女性の姿をしている。

あの後、大樹の精霊トレントは相当ごねたらしい。その不満の感情がこちらにも伝播してくるのだと苦笑いをした。

「あまり目に余るようなら仕置をせねばなりませんね」

森を守るアレイヴ族の守護のために遣わした眷属だが、いつの間にか目的が歪んでしまっている。外か内かの境界にばかり拘って、境界を守ることに躍起になっている。これでは遣わした意味がない。

「それならば我の力を貸そうか」

受肉した肉体を楽しむように部屋を飛び回っていた雷神トールが隣に降り立った。雷は憤怒と罵倒を司る。雷の激しい叱咤で打ちのめされれば心を改めるだろう。くつくつと面白そうに笑う雷神トールに樹神ラウフェイは、考えておきます、と答えた。

「眷属といえば、クレイラ・セティは健在?」

「よく威厳を忘れる駄犬なら元気さ」

相変わらず人懐っこいままである。クレイラ島の子供たちと無邪気に遊び、腹を見せて地面に寝転がったという。雷神直属の眷属という威厳は何処にいったのやら。頭が痛い問題である。

「私の眷属は普段通り何も変わらぬよ」

ふわふわと傍らに浮いた水球を指で弾いて遊んでいる水神ティアマトが続いた。ナルド海に棲むつがいの海竜は仲睦まじく、時折海をふたりで泳いでいる姿が見られる。荒ぶる時化の体現の雄竜もその時ばかりは穏やかで、波が凪ぐその日は大漁になるのだと漁師が喜びの声をあげているのを聞く。

それほど穏やかになるのかと物珍しく思った水神ティアマトがナルド海の様子を見に行くと、雌竜が悋気をあらわにして吠える。そうなればたじろいだ雄竜は住処に逃げ出し、水神ティアマトもまた退散するしかない。睦まじい穏やかな時間は終わり、波は再び荒れ狂う。

「土神よ、そちらは?」

「……何も」

ゆるりと土神ヨルズが応じた。土を思わせる赤茶けた布で目を覆った土神は部屋の隅で座り込んでいる。ゆるりと身体に巻いた長布が身体のラインを隠して男女か判別がつかない。中性的な容姿の大地の護神は座り込んだその場から動く気配を見せない。

怠惰の土神の眷属である巨大な岩竜はあの平原に伏せたままである。山と見紛うほどの巨大な体躯を持ち、ドラヴァキアと呼ばれる岩竜は体内で信徒の卵を抱え、その転生を待っている。それを守護する者ももういないが、堅牢な殻を持つ竜など誰もその身ひとつ傷つけはできないだろう。

「眷属には皆悩むものか」

くすくすと会話に割り込んだのは風神アンシャルである。ともすれば枯れ枝と見間違えそうな華奢な指から笑い声が漏れた。

「眷属など持つから悩むのだよ」

最初から持たなければ悩むこともない。気まぐれと自由を愛する風神アンシャルは人のために遣わした眷属などいない。眷属自体は存在しているが、それを統治することなく自由にさせている。風に乗せ種を運び恵みをもたらそうが、竜巻となって荒れ狂い災害を起こそうが口を出さない。何をしようとも関わらずに放っておくのが風神アンシャルの信条である。自由はこの世で最も尊いのだから。

「信徒だけで十分。そうでしょう、氷の神よ」

「応とも」

水を向けられた氷神フレスヴェルグは長い袖で口元を隠して笑った。くすくすと風神と顔を見合わせて笑い合う。

風神は世界中に信徒を散在させているが、氷神フレスヴェルグはその逆だ。一箇所に集めている。何もかも氷に閉じ込める独占欲を象徴する氷神を崇める信徒たちは、その存在を隠して世界の何処かにいる。氷神の主であるアッシュヴィトでさえその存在を知らない。

「やれやれ……」

信徒も眷属もいるが皆神を悩ませたりすることはない。気がかりといえば信徒が犯した罪の行方である。

一同を見やり、火神カークスが肩を竦めた。火というものが持つ苛烈さをそのまま写し取ったような切れ長の目が僅かに和む。さて、と表情を引き締めた火神はアッシュヴィトに視線を向けた。

「よもや世間話をしにきたわけではあるまい」

用事は何だ。まさしく火急と言わんばかりに火神は本題を促した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ