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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
貿易都市エルジュ
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鐘と篝火

パンデモニウムに動きがないというのはありがたい。こちらは足場を固められる。同盟発足とそれにまつわる手続きも滞りなく済ませることができた。発足の後の運行も問題はなく。ディーテ大陸のどこにパンデモニウムが登場してもすぐさま戦力を派遣できる。

この手早い派遣をなしたのは"アトルシャン"の力だ。元々、各都市の自治組織の仮面をかぶって反パンデモニウム組織"アトルシャン"のメンバーは存在していた。バハムクランもその末端だ。それぞれは独立していて互いに連絡を取ることは滅多になかった。母体組織であるキロ島のクランを頂点として並列に存在していた。その横のつながりを作り上げるに至ったのが"アトルシャン"盟主クロエ・エンシェントの一声だ。互いに連携せよという指示のおかげで緊密な連携が組み上がるに至った。

同盟はそれを表舞台に引きずりあげただけにすぎない。自治組織という脆い組織を各都市の為政者に公式に徴用させ正規の組織にした。

このことは各都市の領主も知っている。むしろ逆。各都市に散在する"アトルシャン"の末端を飲み込んで同盟がなったわけではない。領主たちが"アトルシャン"に加入したのだ。だが、それを公にしてしまっては母体であるキロ島がパンデモニウムの襲撃に遭う。海峡と山を挟んでいるものの、パンデモニウムの本拠地とキロ島の直線距離は近い。乗り込もうと思えば乗り込める。

母体が潰されれば組織は瓦解する。だからこそ、"アトルシャン"は裏に隠れることにした。そのための仮面がディーテ大陸相互防衛条約"コーラカル"同盟だ。ディーテ大陸だけが連携し、キロ島は関係ない第三者と装うことで母体組織への攻撃を防ぐ。

他の地域も同じように"コーラカル"への加入声明を発表すれば、その流れに乗って自然とキロ島も加入するつもりだ。その時こそ改めて"アトルシャン"の名を出す。

少し複雑な内情だが、そういうことだ。この複雑極まりない内情をさっさと解決するためにもパンデモニウムへの対抗力を高めるためにも、他地域の加入が必要となる。

だがしかし、西のベルミア大陸の国々はあろうことか同盟を非難したのである。現状維持に固執するベルミア大陸としてはパンデモニウムと争い、余計な波風を立てたくはないのだろう。今日が平和に過ごせるのならば未来にいくら負債を積み上げても構わない気風のベルミア大陸は徹底的に騒動を嫌う。これでは同盟の加入に期待はできない。

ならばと"コーラカル"があてにしたのは他の島々だ。すでに同盟に加わっているラピス諸島や、表舞台に立つ機を窺って雌伏の時を過ごすキロ島以外にも島はある。アレイヴ族が支配するミリアム諸島に砂漠の島クレイラ島だ。この両方の島が同盟に加わるのならばキロ島も不自然なく参加できるし、そうなればベルミア大陸の国々も説得できる。世界はすでに"コーラカル"かパンデモニウムかのどちらかに二分されているが、あなた方はどちらを選ぶのかと迫れる。それでも首を縦に振らなければその時はその時改めて考えよう。

ともかくもしばらくはクレイラ島とミリアム諸島の説得に的を絞る。地理的距離でいえばディーテ大陸の南東にあるミリアム諸島の方が近い。クレイラ島はベルミア大陸の南西にある。だから近場のミリアム諸島へと向かいたいところなのだが、問題がある。

あの島はよそ者を徹底的に嫌う。よそ者の立ち入りが許されるのは小船がなんとかこぎつけられるような小さな海岸まで。それより先、全土が森に覆われた島に踏み込もうものならば排除にかかる。逆もしかりだ。アレイヴ族が島から外に出ようものなら掟破りとして殺される。地中で絡まる根のように徹底的に束縛するのがミリアム諸島なのだ。

アレイヴ族がそうするのではない。あの島に住む精霊がそうするのだ。トレントという大樹の精霊が内外を完全に遮断する。アレイヴ族はそれに囲われた籠の中の鳥だ。部外者が立ち入りしても許される海岸でさえ漂流者がたまたま泳ぎ着いてしまった時のための妥協策だ。

ミリアム諸島に使者を送ってはいるが、返答は芳しくない。接触するなと大樹の精霊トレントが突っぱねて、その意を受けたアレイヴ族が申し出を拒否する。これ以上説得に訪れるようならば使者の首をはねて送り返すとまで言い放っている始末だ。このままでは堂々巡り。むしろ自体が悪化する。それならばミリアム諸島はしばらく刺激せずに放っておくしかない。

幸いにも、パンデモニウムはミリアム諸島に侵略の手を伸ばしていない。略奪するものもない森しかない諸島など放置しているというわけではなく、これまた大樹の精霊が激しく抵抗してパンデモニウムの大軍を幾度となく返り討ちにしたからだそうだ。

そのような状態なので、ミリアム諸島には"コーラカル"も手が出せない。放っておくしかない。なので自然と説得の先はクレイラ島になるのだが。

クレイラ島はクレイラ島で、ベルミア大陸もミリアム諸島も動かない状況ならば自分たちに話が向くだろうと予想していたのか、とんと無反応になった。非難も賛同もしない、傍観に回ると発表してそれきりだ。使者を送ろうにも、季節風による砂嵐が島全体を覆っていて進入できない。クレイラ島に入るには、砂嵐がおさまる数ヶ月後を待たねばならない。

さてどうしたものか。その対策に"コーラカル"は頭を悩ませていた。

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