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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
森の巨木 ミリアム諸島
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忌まわしき麦踏みの毒

ごろりと丸太のような太い枝蔦の左手が地面に転がる。顔のような果実が苦悶の表情を浮かべた。その隙にハーブロークが後ろに飛び退って距離を取る。

「"指導者による標準"!」

猟矢が薄く青い透明の結界を解除して弓に変化させる。もはや慣れた弓だ。番えた矢を放つ。魔力を変換して作った矢はドリアードの胸にあたる硬い樹皮に突き刺さった。

だが、それでもドリアードの動きを鈍らせるには至らない。矢に動じず、ドリアードは地面を足根で打つ。あの攻防の間に地面に撒き散らしていたらしい種が発芽し、蔦を伸ばす。残った右手まで切り落とされるのを庇ってか、蔦を操ってでの攻撃に切り替えたようだ。

ざわざわと動く何本もの新芽の蔦を器用に操り、鞭のように乱打する。それらを避け、断ち切り、それでもまだ襲いかかってくる鞭蔦に対処しながらアッシュヴィトはふとあることに思い至った。

「マズい予感がしなくもナイ!」

「…何が」

すぱんと衝撃波の刃で蔦を切りながら発したアッシュヴィトの言葉に、同じように氷剣で刻みながらダルシーが応じる。取りこぼした鞭蔦はハーブロークが薙ぎ切って後ろにいる猟矢たちへの波及を防いでいる。

いったいなにがまずいというのか。訊ねようとしたダルシーの前に鞭蔦が迫る。それを断ち切ろうと"ラグラス"を振り払った。

「っ…!?」

さっきまで難なく切れていたそれが、急に断ち切れなくなった。蔦に刃が食い込んで抜けなくなる。それに気を取られた隙に何本かの蔦が横をすり抜けていく。

「何やってんだダルシ、ぃ!?」

槍では断つにあまり向かないからと最前線を譲ったのがまずかったか。取りこぼすくらいなら最初から前線に立てば良かったなどと思いながら振り払ったハーブロークの槍もまた、蔦に食い込んで止められる。その手足に蔦が絡みついて動きを止める。

邪魔をするものがいなければこの程度。蔦は素早く猟矢やアルフ、バルセナまでも絡めていく。しまった、と舌打ちする頃にはもう遅い。そこから手に絡みつき武器を振る余地などなくす。ざわざわと蠢くように成長する蔦が何重にも拘束を強めていく。

それは、いつだかにラピス諸島で樹神が見せた拘束術と同様であった。植物はその成長段階で傷つけられればより強く生育する。害するものに傷つけられまいとしてより丈夫な根と茎を作る。つまり、断ち切られてしまったのなら、刃物程度では斬れない強さとしなやかさを持てばいい。そうすればこの通り。

顔のような果実がうっそりと微笑んだように見えた。さぁこれで決着。この人間どももまとめて我が身でもある樫の刑台に吊るしてしまおう。この顔の果実の横の枝にぶら下げて森中を歩き、森の信徒たちに見せしめにしてやるのだ。

そうほくそ笑むドリアードに対し、彼らは動揺も焦燥もしていないようだった。諦めたか。ドリアードが視線をよこす。そこにあったのは自信の表情。この程度ではなんともないといったような。

「拘束を"キャンセル"」

猟矢がそう呟いた。その瞬間、見えない何かに弾かれたように蔦の拘束が一気に緩んだ。何が、と動揺し焦燥を浮かべるドリアードが立て直すより先に反撃に転じる。

「"隠者による百識"!」

宣言のような文言に反応してドリアードに突き刺さったままだった矢が形を変える。矢羽が左右に裂けて円盤状に変化する。ほんの少し湾曲したそれはまるで茸のようだった。樹皮に唐突に生えた小さな茸は赤地に白の斑点を持つ。

「……!」

小さな茸が生えた。そう理解したドリアードの身体が傾ぐ。ぐらりと傾き、左腕を失ったことで狂った重心に従って倒れ込む。何が。状況を理解する前に本能的に察する。これは毒。毒の胞子が樹皮を浸透し蝕んでいるのだと。

"隠者による百識"。それは毒を付与する小さな茸だ。小さくはあるが含まれる毒は強力かつ即効性。じめじめとした物陰に生える茸の様子から連想し生み出した。攻撃を加えれば加えるほど強靭になるならば間接的に蝕めばいい。

「よくやった!」

全員拘束された窮地からたった2手で逆転するとはさすが規格外。揶揄してハーブロークが切り込む。倒れ込んだドリアードの右肩にあたる部分を上から重量で押し潰すように潰し断つ。

左手が再生されないところを見ると、どうやらこれは斬ればそのままのようだ。蔦のようにより強靭になって再生したりなどはしない。そう踏んで実行に移したが正解だったらしい。

顔の果実が苦悶に歪む。反撃が来る前にドリアードから離れる。悶絶するドリアードは足根を踏ん張って立ち上がった。その足元で蔦がざわざわとうごめく。意思を持つかのように伸びた蔦は身体に寄生した"隠者による百識"の茸を樹皮ごと引き剥がした。

がっしりと足を踏ん張って構えたドリアードは伸びる蔦で全身を覆い始めた。傷つけられるほどに強靭になる無限強度の鎧だ。そこから一部の蔦を伸ばし編んで欠損した両手の代わりにする。

どうやら剥き身のままでは断ち切られ傷つけられると判断したようだ。そこで蔦の鎧をまとって身体を覆うことにしたらしかった。

地面に生えた蔦で覆われて固定されるのでその場からは動けない。だがこの無限強度の蔦は自在に防具にも武器になるのだ。

この鎧を引き剥がしてみるがいい。できるのならば。そう言いたげな視線をよこした顔の果実も蔦の中に飲み込まれていった。

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